「起業家精神の伝播が真の復興を支える」堀義人さん

堀義人さん

堀義人(ほりよしと)さん
グロービス経営大学院 学長
Project KIBOW 発起人
京都大学卒、米国ハーバード大MBA取得。住友商事㈱を経て、92年に㈱グロービス、06年にグロービス経営大学院を開学。11年3月に「Project KIBOW」を旗揚げ。被災地での起業家育成等を行う。

 私が復興支援プロジェクト「Project KIBOW(以下KIBOW)」を立ちあげたのは、2011年3月14日。被災地で復興アイデアなどを議論する「KIBOW」会議を中心に、海外への情報発信、寄付の三本柱でした。ただ、当時の私には「自然の前に人間は無力」という思いが強かった。まだ余震が頻発していた時期でした。

 しかし1年間の活動を通じて、私にも貢献できることがあると気付きました。特にそれは被災地における新たなイニシアティブの創出にあると感じました。

 例えば4月12日にいわき市で行った「KIBOWいわき」には、鈴木賢治さんという若者が参加していました。実家が全壊被害にあった人です。当時鈴木さんは自分の思いを一言も語ることが出来なかったが、その後一念発起し、復興屋台村「夜明け市場」を立ちあげます。「震災と原発という二重苦のいわきに賑わいを創りたい」と駅前の飲食店街に被災した飲食店を集めたのです。これから明るくなるいわき市を信じ「夜明け」と名付けたと。

 また「KIBOW盛岡」に参加した芳賀正彦さんは、親戚や知人を亡くされました。でも避難所生活を送る有志12名で任意団体を設立し、瓦礫で作った薪「復活の薪」の販売を始めた。「自分は何かの働きがあって生かされた。亡くなった友人や親類に笑われない生き方をしたい」とその言葉は力強かった。

日本の「ボトム」が 評価されている

 このように被災地では、意識の覚醒と新たなイニシアティブが生まれています。私はダボス会議で知り合った3600人に日本の現状を報告しましたが、総じて「日本のリーダーには不安を感じるが国民は誠実で信用できる」との評価でした。つまり日本は、トップではなくボトムに評価と期待が集まっているのです。

 私はKIBOWに集まった一億円近い寄付金から、「夜明け市場」などのボトムから生まれた活動に資金を提供させて頂きました。百万円程度なので店舗の修復や再オープンであっという間になくなる金額です。でも「ボトムの一念発起を支えた」という意味で、価値はあったと思います。

復興のカギはソフトへの投資

 災害復興には「若者」「よそ者」「バカ者」が必要だと言われます。過去の成功体験やしがらみに固執しない「若者」、地域や業界の常識に捉われない「よそ者」、そして考え過ぎずとにかく行動する「バカ者」。

 KIBOWを機に行動を起こした多くは「若者」だったし、彼らの常識外れな発想は平時では「バカ者」扱いされるでしょう。さらにこれらの活動に「よそ者」を加えるといい。例えば農業や漁業で規制緩和を行い、多くの産業に新規参入を促すのも一つの手だと思います。もちろん民間企業が東北に支社やコールセンターをつくってもいい。よそ者の参入は雇用を生み、テクノロジーやノウハウの伝播にもつながります。

 そして今後は、視点をハードからソフトに移すべきでしょう。多くの被災地にとって、大きな課題は地域と産業の成長。この一年はインフラなどのハードの整備が進みましたが、私は真の成長は人の成長でしか成り立たないと思っています。KIBOWからもいくつもの取組みが生まれましたが、この息吹がたくさん、かつ大きく育たないと復興にはつながらない。そのためには、教育が必要です。

 例えば楽天の三木谷社長やDeNAの南場元社長はMBAを取得しています。MBAはリーダー養成学校。この教育の場がなければ両社が展開する事業も、その雇用もなかったでしょう。だから私は、教育の場を提供するためグロービス大学院の仙台校を立ちあげました。1週間で立ち上げを決めた私は、おそらく「バカ者」の部類に入るでしょう。しかし震災で多くの方の意識が変わった今、教育によって多くの起業家精神を生むことができる。その精神の伝播が、東北の復興を支えるのではないでしょうか。

 だから二年目以降も、私はKIBOWを継続します。人と出会い、夢や希望を語る場が、エネルギーやネットワークを生むことにつながれば幸いです。

取材・文/齋藤 麻紀子

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