原発事故による放射能汚染で食の安全性が揺らいでいる福島県。とくに大きな打撃を受けたのは「地産地消」や「土づくりを通した有機栽培」にこだわってきた農家だ。福島県東部、あぶくま地域と呼ばれる地区では、多くの女性農業者が地元の食材を使った特産品や料理の開発・販売を行ない、地域おこしの主役として活躍してきた。しかし、原発事故で避難を余儀なくされ、仲間は分散、技術や知恵を生かす場所も失われてしまった。
そんな女性農業者たちが「いつまでも泣いてはいられない」と、地域の人々の協力を得て「かーちゃんの力・プロジェクト」を立ち上げた。福島市のNPO法人ほうらいから、拠点となる「あぶくま茶屋」を借り、昨年11月1日にオープン。最初にやったことは、バラバラになった仲間を探し歩くことだった。「飯館、浪江、葛尾、それぞれの地域にいろいろなグループがあった。でも、皆がどこに避難しているか分からなかったのです」と事務局の五十嵐裕子さんは振り返る。
徐々に仲間が集まり、昨年末には中通り3地区で、かーちゃんたちが故郷の餅をふるまう「結もちプロジェクト」を、そして3月上旬には、プロジェクト第2弾「福幸焼き」を開催することができた。もち米は新潟から、福幸焼きで使ったネギは三重からと、各地から原材料の支援も届く。彼女たちが避難先でつくった農産加工品は、放射性セシウムの基準を独自に設定、国の基準値よりもきびしい20ベクレル以下だ。
今後は「かーちゃんの店」をオープンさせ、そこを拠点にキッチンカーを走らせたいと構想はふくらむ。
かーちゃんたちの笑顔を見ていると元気になれると、五十嵐さん。「活動の場を得て、一人ひとりが笑顔と生きがいをとり戻し始めています。奪われたものが多かったからこその笑顔だと思います」。
取材・文/遠藤惠(ふくしま連携復興センター)
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