宮城県3社の実例に見る 沿岸部加工事業者の課題と展望
水産加工業の被害状況と難しい再建への道
震災から1年。しかし被災地の経済活動は順調とは言えない。
被災3県(岩手・宮城・福島)の主力産業である農林水産分野の被災金額はおよそ2兆2839億円。沿岸部の被害が大きかったことから「漁業再生」が復興のキーワードになっているが、まだまだ苦労を強いられている実情がある。
農林水産省の発表によると、水産加工施設の被害総額は太平洋側7道県で1兆6300万円。うち66%を宮城県が占めている。宮城県では食料品出荷額の約半分を水産加工品が支えていたが、今回の震災で加工施設の実に7割が全壊した。更に08年の漁業センサスによると漁師などの海上従事者よりも加工などの陸上作業従事者の方が多い。漁師のみならず、加工業を始めとする「陸の仕事」の再生が復興には不可欠だ。
しかし多くの事業者にとって、工場の再建が大きな壁になっている。原因は3つある。ひとつは、地盤沈下の影響で震災前と同じ場所での再建が難しいこと。移転するかどうかを決めるため、自治体の復興計画の確定を待っている事業者も多い。次に、移転を決めた場合でも、平らな土地の多くは仮設住宅に使われており用地取得が難しいこと。3つ目に、もともと借り入れをしていた多くの企業にとって、更なる資金調達が難しいことが挙げられる。土地はない。資金もない。工場を再建しても、二重ローンに苦しむ。この苦しい環境下では、当然再建のロードマップも見えない。
ここに紹介するのは、工場を流されながらも、独自で再建を進める3つの企業である。3社は、いかにその壁を乗り越えたか。そのポイントと、いまなお抱える課題を有識者のコメントと共に探った。
実例1:マルアラ(株)(宮城県・南三陸町)
運よく残された工場で事業再開。経営革新と販路開拓に取り組む
マルアラは、ホタテ、カキ、ワカメなど水産加工品の製造・販売を行う地元の有力企業だった。加工過程で廃棄されていためかぶの商品化、カキのトレーサビリティシステムの導入など、時代に合わせた柔軟な対応が評価されていたが、5つの工場のうち4つが津波で全壊。現在は、残された1つの工場で事業を行っている。
同社の社長・及川良則さんが最初に行ったのは、南三陸以外の漁場からの仕入れだ。マルアラはこれまで南三陸の海産物を使った加工品を製造・流通していた。しかし、商品が流通しないことで顧客が離れると考えた及川さんは、青森や北海道の海産物を使った加工品を製造、既存顧客に販売した。おかげで、南三陸で水揚げが始まった7月以降も、取引は順調に進んだ。
また顧客だけでなく、仕入元である漁師たちの再建にも力を注いだ。「漁業の復旧なくして、加工業の再生はない」と考えた及川さんは、仕入元である漁師に代わって船や種を調達。当面の生活費にしてもらうため、養殖業者が抱えていたワカメなどの在庫も優先的に買い上げたという。
加工業に不可欠な「仕入」「販売」機能の維持・回復に注力した同社だが、夏以降は経営革新も図っている。震災後に仕入れた冷凍原料を活かし、震災前よりも高付加価値の製品を開発。この商品を武器に、東京の百貨店やオンラインショップなどの販路も開拓した。稼働する工場は今も1つだが、売上は震災前の3割にまで回復しているという。
当然、課題もある。売上を更に回復させるには、新工場の建設が必要だ。しかし高台に土地がなく、用地確保が難航している。ただし、地域産業の再生を見据えた同社の動きは、金融機関からも高く評価されており、資金調達面での苦労は少なそうだ。「マイナスからのスタートだが、変化とチャレンジを加えている」という及川社長。経営革新による、さらなる飛躍が期待されている。
取材・文/齋藤 麻紀子
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