土地・設備・資金、問題を抱える中小企業再建を考える【後編】

(株)石渡商店(宮城県・気仙沼市)

高台の土地に作業場を建築し先手を打つ方針で地域を牽引

石渡商店 石渡久師さん

専務取締役の石渡久師さん。「再建は 難しいのでは」という父を説得した

 気仙沼の代表商材であるふかひれを50年以上も扱ってきた石渡(いしわた)商店。中華料理屋で大皿料理として提供されるふかひれとは異なり、「小さくカットする」「同じ形に揃える」などの加工を施した石渡商店の商品は、天皇の即位晩餐会の茶わん蒸しにも使われた。

 石渡商店のあった気仙沼港周辺は、今回の震災で大きく地盤沈下した。従って周辺の事業者たちは、新工場の建設場所を見極めるために自治体の復興計画を待ったが、石渡商店は「スピード重視」で再建を進めた。代表の父に代わり再建を主導したのは、まだ30歳の専務・石渡久師さんだ。

石渡商店 新工場

新工場イメージ。「子供の代に津波はいらな い」と新工場は高台に建設

石渡商店 作業

仮工場で行われている加工作業の現場

 先手を打つ動きが奏功し、夏には仮工場用の用地を確保。8月には仮設の工場を稼働させることができた。まだフカヒレの水揚げは始まっていなかったが、海外からの仕入品を流通させることで、顧客とのパイプをつないだ。

 同時に、祖父が持っていた高台の土地に、新工場の建設も計画。設備は十分ではなかったが、「まず始める」ことを決め、12月に着工した。こうした他の業者をリードした動きはマスコミにも取り上げられ、気仙沼のふかひれ業者への支援の受け皿にもなったという。

 スピード重視の姿勢は今後も変えないという石渡さん。実は千葉県銚子市のフカヒレの水揚げ量が伸びており、今回の震災で逆転する可能性を危惧している。「スピーディな動きが、気仙沼のふかひれブランドのアピールになれば」と30歳の若きリーダーは地方産業の再生をも見据えている。

丸光食品(株)(宮城県・気仙沼市)

自社工場を諦めレンタルに。発想の転換で操業開始を目指す

丸光食品 社長

代表取締役の熊谷さん。職人でもある熊谷さん は、毎朝4時に起きて仕込みを行う

 創業50年超。気仙沼唯一の製麺会社・丸光食品の商品は、「丸光の麺」として地元で愛されてきた。175円のてんぷらうどんから5千円以上もする「気仙沼ふかひれラーメン」まで幅広い商品を扱っていたが、工場、事務所、冷蔵庫、資材の一切は流された。

 秋には工場用地が見つかり、再建のスタートは順調に見えた。しかし新工場建設に3億円もの費用がかかることが分かり、年商1億円程度の同社は、資金調達に苦しんだという。

 震災前にも借り入れがあったため、融資に応じる金融機関は見つからなかった。被災場所に所有していた土地も、地盤沈下により査定価格は「ゼロ」となり、担保にはならない。また助成金を使っても工場再建の費用には遠く及ばず、「千年に1度の大災害にも関わらず、支援の仕組みは従来通りだった」と社長の熊谷しげるさんは語る。

気仙沼 海鮮ふかひれ生らーめん

震災前は通販カタログなどで好評だった 「気仙沼 海鮮ふかひれ生らーめん」

丸光食品 包装紙

専務の熊谷敬子さんが震災直後に工場跡の 瓦礫の中から見つけた自社の包装紙

 結局、自社工場の建設を断念したことが、同社の再建のきっかけになった。工場は、昨年廃業した工場をレンタル、機械は廃業した製麺会社から譲ってもらい、再建費用は民間のファンド会社を通じて集めた。一からつくるのではなく、使えるものを使う。銀行の融資や助成金ではなく、民の力で資金を集める。発想の転換が、再建への一歩を拓いたという。

 しかし、たとえ操業を開始できても、その後の事業が安泰なわけではない。同社の取引先の実に8割が被災したため、今後は内陸部や県外への販路拡大が必要となる。まだ操業は開始していないが、東京で行われる商談会には積極的に参加。新商品開発にも着手しており、現在は操業開始後の準備に注力している。

前進の鍵は「復旧」と事業の新しい形態づくり

 3月4日の時事通信の発表によると、被災3県で廃業した事業者は実に2035社、休業状態にある事業者は5039社にも上るという。自治体の復興計画が進んでいない沿岸部では、どの場所で再建すべきか判断できない事業者が多いのだという。

 今回紹介した3社を見るに、再建のキーは「まず、出来ることから始める」ことだろう。いずれも自治体の復興計画を待たず、自社で出来ることを進めたことが再建につながっている。しかし、一般社団法人RCF復興支援チーム・フェローで水産加工業のリサーチを行う茂木崇史さんは「民間企業単体での再建には限界もある」とも語る。

 「宮城県のある水産加工会社は、被災を免れた1つの工場を稼働させながら、その空きスペースを他の事業者に貸し出しています。また現在100人もの従業員を雇用していますが、これは現在の売上規模には見合わない数です。つまり今は、リーダーの志によって町が支えられている状況なのです」。

 事実、今回紹介した3企業も、再建に多くのリスクを取っている。彼らには漁業従事者のような補償もないため、再建過程で体力に限界がこないとも限らない。逆にリスクを最小限に留めるためには、地盤沈下した土地のかさ上げなど、自治体のインフラ整備を待つことになり、再建が進まない。この現状を、茂木さんはこう見ている。

 「震災から1年経ちましたが、現場で求められているのは『復興』ではなく、まだ『復旧』なのではないでしょうか。自治体は復興計画を早急に確定させ、事業者が再建できる場所をつくること。まだ復旧段階の取り組みであっても、事業者が一歩を踏み出せる下地になると思います」。そのうえで茂木さんは一社では立ちあがりづらい事業者に、グループ化を推奨している。

 「インフラが整ったら、中小企業はグループで戦うことを考えるべきだと思います。例えば水産加工業なら加工団地などの施設を共同利用し、工場建設にかかるリスクを軽減する。その上で、複数の事業者が一体となり、商品開発や交渉を行っていく。6次産業化まで発展できたら、地方の中小企業の新たなモデルが出来るのではないでしょうか」。

 この1年、企業の再建は志ある経営者に委ねられてきた。2年目は、既に立ちあがったリーダーを支えつつも、身動きの取れなかった企業が表舞台に出るための支援が必要とされている。

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取材・文/齋藤 麻紀子

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