復興事業の経営マネジメントを考える【後編】

事業成功のカギはベテランの知とプロの知

GRA岩佐代表

「右から 岩佐大輝 GRAグループ 代 表取締役CEO、橋 元忠嗣 株式会社G RA取締役副社長、 橋元 洋平株式会社 GRA取締役副社長 COO

「僕らにはアイデアがあります。でも、いちごを育てた経験が足りません」と岩佐さん。それを補うのが、この道35年のベテランいちご農家の橋元忠嗣さんだ。被災後、いちご農場を再開することには消極的だったが、岩佐さんたちの熱意に押されたことと、後継者に技術を伝えていかなければいけないという思いから参画を決めた。橋本さんは現在、農業経営のために作られた農業法人GRAの役員に迎えられプロジェクトを支えている。「いちごは、施設園『芸』というだけあって、芸ごと。同じように育てたつもりでも、味や形に違いが出てくるプロの技なのです」と岩佐さん。素人目には赤く熟れているように見えるいちごも、ある物は甘く、ある物は酸味が強かったりもする。それを育て分け、見分けるのがベテランいちご農家の暗黙知だ。それを可視化し、仕組み化することが高品質ないちごの安定的な生産につながり、次世代の雇用も生むと見込んでいる。

生産以外の部分も、経験豊富なメンバーに助けられている。GRAが生産するいちごは、従来の市場を通す流通経路を基本的に通らない。

プロボノチームの活動風景

プロボノチームの活動風景

「薄利多売」ではなく付加価値をつけてブランドいちごとして販売していくところが事業の肝だからだ。しかし、それには「いちごのブランド化」と、独自に販路を確保していく「マーケティング」が重要。そこを支えるのが首都圏在住でMBAを目指す大学院生およびMBAホルダーを中心とする、NPO法人GRAのプロボノ400人超のチームだ。プロボノには、それぞれが持つ可処分時間の5%をGRAの支援に使い、復興支援を行いながらビジネスを実践するフィールドが用意されている。ファイナンス、マーケティング、PR等、その分野のプロが得意分野で使う5%のパワーを岩佐さんは実感しているという。

また特筆すべきは、分野ごとにチーム責任者と目標値を設定した後、そのチームに運営を一任していることだ。本業を持つプロボノの生活スタイルに合わせたこともあるが、プロフェッショナルが最適解を導き出せる形、コミットを促す効果もある。

事業計画書作成も、資金繰り成功のカギ

岩佐さんは今回の事業を始めるに当たり、事業を分析し、綿密な事業計画を立て、事業計画書に落とし、融資金の返済プランなどのキャッシュフローも明確化した。その甲斐もあり事業に必要となる億単位の融資を銀行から受けることに成功した。「今回は国の助成を受けて事業をスタートするわけですが、山元町で国内最先端のいちご農家を育てるためには、事業の将来を僕らもしっかりと見極めていく必要があります。それを意識しての事業計画ですし、融資だと考えています」と岩佐さんは話す。

被災地の事業者が抱える大きな課題の一つが「融資が受けられない」ことだ。もちろん二重ローンや、後継者不在等の問題が指摘されることは多い。しかし、融資する銀行が、事業の将来性などを判断できるよう、事業計画などの形に落とし、返済などの実現可能性などを数字を示して定量的に示す点は見習うべきだろう。もし事業者自身にそのノウハウがない場合、そこでこそ外部のスキルを持つ人の支援が有効になるだろう。

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