医療・福祉充実に「地域の力」 被災地を地域包括ケアのモデルに

被災地では今、人口流出により加速する高齢化・医療過疎化への対策が急がれている。限りある医療資源の中、地域の高齢者が安心して暮らせるまちづくりの実現に向けて、医療も「地域コミュニティ」を軸に対策が進められている。

2012年2月、政府は「社会保障・税一体改革大綱」を閣議決定し、医療体制見直しの目玉として「地域包括ケアシステム」の構想を掲げた。地域包括ケアとは、日常生活圏域内において「介護」「医療」「生活支援」「予防」「住まい」が切れ目なく、包括的かつ継続的に提供される体制をいう。また、日常生活圏域とは、30分以内に駆け付けられる圏域が理想的として定義され、具体的には中学校区を基本としている。政府は、地域包括ケアの先進的モデルケースを被災地で生み出していきたい考えだ。

被災地では、震災を機に自宅で医療を受ける在宅医療へのニーズが高まりつつある。交通網が失われ通院困難な患者が増加、医療機関が壊滅的被害を受け病床数が減少するなどの要因で、必然的に需要が高まった。加えて、震災後に医療者やソーシャルワーカーが患者を訪問する体制が進み、医療主体が病院から病院外へ広がったことも、地域住民の在宅医療への意識を高めているようだ。

地域包括ケアシステム

しかしその一方で、被災による家族の介護力低下や地域コミュニティの脆弱化など、在宅療養環境の整備に課題が山積しているのが現状だ。家族を失ってしまった場合はもちろん、住居・仕事の喪失による生活基盤の不安定さが影響している。さらに、地域のつながりが途絶えてしまった人も多く、高齢者孤立化の問題が浮き彫りになっている。

こういった個別的問題に気づき対応するには、地域ぐるみの支援が必要不可欠だ。地元の民生委員や近所の人々が顔を出し、気に掛かることがあれば保健・医療・福祉などの専門家を交えて解決策を模索する。一人の患者を様々な視点から一体的に支援する地域包括ケアシステムが果たす役割は大きい。また特筆すべきは、地域の基準単位を「校区」とし、地域住民どうしの顔が見える範囲に定めた点だ。この仕組みを実現する上で必須となる、人と人との信頼関係の構築を重視していることが伺える。地域包括ケアシステムは、医療・福祉の充実を目指した新たなまちづくりのカギとなる。

厚労省は、2025年には日本の高齢世帯が約1900万世帯となり、うち単独・夫婦のみの世帯が約7割となると予測している。高齢化が課題の被災地域では、まだ地域包括ケア導入の検討が始まったばかりではあるが、この実践は必ず将来の生活支援の質向上につながるだろう。

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