オールジャパン体制で挑む大規模浮体式洋上風力発電
丸紅、東京大学、三菱重工など11の企業・大学からなるコンソーシアムは、2011年度第3次補正予算に盛り込まれた経済産業省からの委託事業「浮体洋上ウインドファーム実証研究事業」に採択され、福島県沖約20 kmの海域で、段階的に浮体式風力発電機3基と洋上サブステーション1基を建設し、実証研究を行う。
浮体洋上ウインドファームとは、海の上に巨大な風力発電設備を浮かべ発電し、海底ケーブルで陸上に電力を送る大規模風力発電所。海洋に建設する風力発電施設には、海底に基礎を据える「着床式」と、船や浮きなどの構造物に風車を載せる「浮体式」の2つの方式があるが、水深50 m前後を境にコスト的に浮体式が有利になると言われている。遠浅な海岸線が少ない日本の海域では浮体式の研究開発が必要であり、今回の福島沖も水深100mに達するため、浮体式を採用する。
浮体式の風力発電はノルウェー、ポルトガル等で2009年頃から実証実験が始まっているが、いずれも発電サイズは最大でも2300kW程度。今回の研究が目指す7000kWは世界最大規模となり、世界的にもまだ研究段階で技術が確立していない。
普及に向け技術結集し ハードルを超えろ
従来から風力発電は各種再生可能エネルギーの中で、比較的発電コストが低い、電気エネルギーへの変換効率が高い、また二酸化炭素を排出しないことから、クリーンなエネルギーだと言われてきた。
しかし一方で、日本では元々建設に適した平野部が少ない上、巨大な風車の運搬用搬入路工事による森林伐採、周辺住民への騒音、低周音波健康被害等が指摘されてきた。また常時風速7・0m/s以上の風を得られる環境が必要となり、安定性の面でも弱点があった。
そんな中、広大な海洋面積と、陸上と比較し安定した風環境が見込める洋上での風力発電へ期待が高まっているわけだが、ここでも普及に向けたハードルは低くない。
まず船舶の航路を塞ぐことによる物流効率の悪化の可能性や、衝突事故の可能性も指摘されるため、周辺漁業関係者との対話が重要となる。今回の研究でも「漁業との共存」がテーマとして掲げられている。
また台風等の暴風雨や、常に大量の塩分を含んだ潮風にさらされる過酷な環境にも耐え、風車が安定回転し続けるには、メンテナンス技術、それを支える人材確保が肝となるだろう。国土交通省が主体となって専門家による委員会が設置され、本年4月末に安全確保に向けた技術基準も制定された。
そして経済性の確保。設備の耐用年数が20年程度と、他の発電設備と比較し半分程度のため、経済性を確保するにはスケールメリットをはたらかせ、より一層の量産化が求められる。安定した風環境であれば24時間発電することができるため、夜間の発電分を活かす蓄電技術の革新も必要だろう。
福島から日本のお家芸 「ものづくり日本」復興へ
昨今、日本のものづくり神話の崩壊を示唆する内容を目にする機会が増えた。確かにデジタル化によって加速した「モジュール型」のものづくりの分野においては、韓国をはじめとする諸外国に苦戦しているかもしれない。
しかし浮体式風力発電の分野は、数万点に及ぶ部品設計、製造について、サプライヤーと綿密な調整をすることで、高い安全性、耐久性が実現できる。これは単なるモジュールの組み合わせではなく、「擦り合せ型」のものづくりと言えるだろう。まさに日本のお家芸である。これまでに培ってきた造船技術、素材技術も応用でき、簡単には他国がマネできない。
重工業や素材産業で日本を代表する企業が名を連ねた今回の実証研究。産官学で力を合わせ日本の最先端技術を結集し、福島で蓄積したノウハウで世界をリードしていくことに期待したい。
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