岩手県大槌町の挑戦に学ぶ【前編】

町と町民が協働するまちづくり

壊滅的な被害を受けた上に、当時の町長が犠牲となりトップ不在で始まった大槌町復興の歩み。復興の遅れが指摘されていたが、昨年8月末に選出された新町長のもと、急ピッチで復興計画を策定した。今年に入っても住宅再建へ向けた住民合意を進める傍ら、がれきを利用し防潮林を整備する「鎮魂の森」事業や、復興まちづくり会社の設立などの施策を打ち出している。その中心にいる碇川(いかりがわ)町長と、地元で活発にまちづくり活動を行っている一般社団法人「おらが大槌夢広場」阿部代表に、現状とビジョンを聞いた。

「開かれた行政」で協働しながら新しい町を創る。

interview 1 碇川豊 大槌町長

碇川豊 大槌町長

—8月末の町長就任から約10ヶ月が経ちました。

当時の町長以下多くの職員に犠牲が出たわが大槌町は、9月の時点で他市町村から「周回遅れ」でした。1000年に1度の大災害と言われていますが、慣習や慣例にとらわれずに迅速に動くために、体制づくりから着手しました。

役場内の組織を産業振興・調整・復興の大きく3つに整理するとともに、部長制を導入し、意思決定の迅速化を図りました。また復興計画策定においては町内10地区で復興協議会をつくり、町民代表者とともに、なんとか年内に議会承認を得ることができました。今年は町民への計画の説明と合意形成、国への復興交付金申請を進めてきました。

—今後の重点施策は?

鎮魂の森イメージ図

鎮魂の森イメージ図

整備した土地の基盤の上に何をつくっていくのか。景観形成や公共施設の配置、産業起こしといった「空間のまちづくり」をこれから進めていきます。

大槌町は一昨年6月に過疎指定された町です。震災の被害に加え、今も日々町民がこの町を去って行っています。新しい町をつくらなければなりません。

例えばがれきを盛り土として利用し防潮林を整備する「鎮魂の森公園」を計画しています。国からの交付金を待っていられないので、町として全国から寄付を集める方針を決めました。樹木による津波被害軽減とともに、景観の維持、それと犠牲者のモニュメントなどをつくることによる鎮魂や震災記憶の風化防止を目指しています。

—そうしたまちづくりに町民参加をどう促しますか?

住民の方々から「行政は何をしているんだ」「計画や制度がよく分からない」という声も頂きます。とにかく情報共有を進めて、ロードマップを示し、現在地を分かってもらわなくてはなりません。

そのためには、今進めている住民説明会や懇談会に加え、さらに役場が外に「打って出る」必要があります。6月30日に町の中心部のシーサイドタウンマスト2階に「復興まちづくり情報プラザ」を開設します。パネルや模型、映像を利用して紙での説明だけでは分かりづらい部分を補完するとともに、常勤の相談員を配置して町民が必要なときに情報に触れて相談できる、新たな情報拠点となります。

また、町民が参加できる場をつくる必要があります。例えば15年前、大槌町は「全国豊かな海づくり大会」で天皇皇后両陛下と約2万人の来場者をお迎えしました。その日のために、1年以上かけて町一丸となってクリーンキャンペーン等の準備を行ったという、かけがえの無い無形の財産が残っています。

—産業復興における施策は?

大企業の誘致もいいけれど、地元で企業を起こしていく必要があります。新規事業創出や起業のプラットフォームとして、秋に復興まちづくり会社を立ち上げます。町有林を住宅等へ活用していく林業のモデルや、外部からの交流人口を増やしていくためのツーリズム事業などを行って行きたい。また役場内も、民間との連携を強めるためにも7月より外部との調整を行う総合調整企画部をつくる予定です。

産業を起こして新しいまちをつくるのは、役場だけではできません。こうした「開かれた行政」を行うことで、町民のみならず、現在大槌町に集まってきて頂いている外部からの企業や大学、ボランティアの方々の叡智を結集して、様々な「こと起こし」をしていきます。

大槌町まちづくりの5つのホットトピック
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