被災者の自立、地域コミュニティの再生といった大きな課題の解決には、官民が連携し、支援を中長期にわたり継続することが必要となる。その方策としては、マルチステイクホルダー(注1)による復興基金の運用が効果的である。
総額1960億円の 基金創設
東日本大震災において、まず基金設立に向けて動いたのは宮城県であり、昨年8月には160億円の取り崩し型基金(注2)創設を発表した。その後、各県からの要望もあり、同年10月17日に、総額1960億円に上る「取り崩し型復興基金」の創設が総務省より発表された。基金の運用について、直営方式・財団方式の選択は各県に委ねられ、結果としていずれの県でも直営方式が採用されている。
全体で9県200以上の市町村に振り分けられた復興基金だが、今年度の活用は一部にとどまっている。一例として、岩手県大船渡市では、住宅を自力再建する被災者向けに敷地造成費と水道工事費を補助したり、地域公民館の整備に利用したりしている。また福島県いわき市では県外観光客に最大一万円を補助する制度を始めている。これら事例が出始めているものの、使い道が定まっていない市町村が多いのが現状だ。
財団法人を設立した 阪神・中越
阪神大震災では個人向けに、中越大震災ではコミュニティ向けに基金が活用された。背景に、両基金では財団法人という行政の別組織を設立したことがある。これにより行政施策と役割分担がなされ、「公的設備よりも個人・コミュニティ」「ハードよりもソフト」といった支援を実現できた。しかし、今回は各県が直営方式を選択したことで基金が行政施策と一体化されている。そのため、個人・事業者・NPOへの支援に行き届くかどうかが、これからの課題となっている。
行政による運用では、ハード支援が中心になったり、公平性を重んじて迅速性を欠く懸念がある。一方、民間では特定の分野・対象の支援にとどまったり、行政支援との重複が生じうる。そのため、行政・住民・事業者・NPO・アカデミック等の複数のプレイヤーによる、マルチステイクホルダープロセスに基づいて、基金が運用されることが望ましい。この方式により、被災者ニーズに合った事業を公募したり、コミュニティの力を活用することで費用を抑えた事業を組み立てることが可能となる。こうしたプロセスを実現するためには、財団法人を別途立ち上げることも検討していかなくてはならない。
10年にわたる復興を成功に収めるには、行政と民間の強い連携が必要となる。マルチステイクホルダー型の復興基金はその橋渡しの機能を果たすといえよう。
(分析・文/藤沢烈・RCF復興支援チーム)
(注1)「マルチステイクホルダー」=復数の関係者
(注2)「取り崩し型基金」=プールした資金を必要に応じ取り崩す仕組みで、年度に縛られず使える利点がある。阪神大震災の際に活用された運用益を活用するタイプの基金は、現在の低金利では有効ではないとされている。