東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(黒川清委員長)は、7月5日、福島原発事故を「人災」とする報告書をまとめた。報告書では、東京電力および関連政府機関が、原発の地震や津波に対する脆弱性を認識しながら対応を先送りにしたことを事故の根源的原因と断定。被害拡大の要因を分析したうえで、調査の継続を含む7項目の提言の実現を求めた。
対策を「意図的に先送り」
報告書は、東京電力(以下、東電)、内閣府原子力安全委員会、経済産業省原子力安全・保安院(以下、保安院)、経済産業省が、震災前に当然実施すべきであったことを行っていなかったことが、事故の根源的原因であると断定。東電と保安院が2006年時点で、第一原発の敷居高さを越える津波が到来した場合に全電源喪失に到ることなどの認識を共有していたにもかかわらず、東電が対策を怠り、また保安院もそれを黙認していた例などを挙げ、「何度も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局および東電経営陣が意図的な先送りを行った」とした。さらに、官邸が東電の本店および現場に直接的な指示を出したことによる指揮系統の混乱が被害拡大を招いたとして、官邸の責任にも言及。危機管理体制の整備を求めた。
提言実現で信用の回復を
問題解決にあたっては、調査結果を踏まえた7項目の提言が示された。危機管理体制や法体系の見直しに加えて、規制当局の意思決定に干渉してきた電気事業者の監視等を求めた。そのうえで、「自らの行動を正当化し、責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織、制度、さらにはそれらを許容する法的な枠組み」が事故原因の背後にあると指摘。個人の責任を追及するのではなく、組織全体として構造を改めなければ本質的な問題解決につながらないと論じた。
黒川委員長は、記者会見で「提言の実現は、日本が失った世界からの信用、また、国家が失った国民からの信用を回復するための必要条件だと確信している」と述べ、実現を強く求めた。
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