岩手県釜石市で6月14日、県内第1号となる災害公営住宅が着工した。平田地区の旧釜石商業高校跡地に鉄筋コンクリート7階建てを2013年秋に完成予定。全126戸のうち6戸を車いす対応とするなど、障害者や高齢者の入居者にも配慮した設計となっている。各県の災害公営住宅に対する取り組みの現状と今後を探った。
動き始めた暮らし再建への取り組み
災害公営住宅とは、災害により住宅を失い、自力での再建が難しい被災者向けに、国の補助で県や市町村が整備し比較的低廉な家賃で供給される賃貸住宅のこと。これまでに応急仮設住宅等の供給はおおよそ完了したとみられており、今後は恒久的な住居環境に対する支援が求められる。岩手県は釜石市の126戸を始めとして2015年度までに県全体で約5300戸を整備する予定だ。
宮城県では仙台市など5市4町の1617戸について事業着手済み。2015年までに県全体で約15000戸を整備する予定だ。また、福島県では原発警戒地域内の住民向けに整備を急ぐほか、相馬市、南相馬市、いわき市、新地町などの市町村が具体的に動き出している。
岩手、宮城、福島の3県すべてで復興計画は策定されており、岩手、宮城はその中で住宅復興に関する基本方針、供給計画も提示している。掲げている基本方針は安心・安全を第一に、高齢者、子育て支援、地域コミュニティ、環境への配慮等、共通している項目も多く、各自治体がお互いに良い取り組みを積極的に「真似し合う」姿勢も重要だ。
高齢者がお互い見守り合う「相馬井戸端長屋」
高齢者支援、地域コミュニティ構築の先進事例としては、福島県相馬市の「相馬井戸端長屋」があげられる。同市は整備を進めている長屋のうち、1つを市内にイオン交換樹脂工場を持つアメリカ科学最大手ダウ・ケミカル社から寄贈を受け、馬場野山田地区にて昨年9月に着工。今年5月に竣工し、入居が始まっている。
この長屋は12世帯全館バリアフリー。それぞれにトイレと風呂と台所を備えるが、昔の長屋生活が井戸を共用していたように、洗濯機を共有スペースに3台置いて共同で使用するほか、食堂を大きめに作り、一日に一回は入居者が全員集まって同じ食事をとってもらうなど、入居者同士のコミュニケーション機会を作り出しているのが特徴だ。入居者に高齢者が多く、お互いに見守りあって、共助の精神で老後を過ごす場所として設計されている。
着工時にアンケートを取り、入居に関する意向を踏まえ様々なシミュレーションも行った。その結果今後要介護状態となる高齢者の増加に備えるため、最初から要介護者に入居してもらい、介護ヘルパーや関連NPO法人と連携した体制で、先を見据えた運営をしている。
進捗の見える化と コミュニティの連続性がカギ
災害公営住宅の取り組みはまだ始まったばかりであり、応急仮設住宅等の入居者が移れるようになるまでには、まだまだ時間を要する。長期化する仮設住宅での暮らしをどう支援するかが課題だ。
岩手と宮城の両県は、県ホームページで復興公営住宅の整備状況について、建設候補地、事業主体、戸数等を公開している。建設地の地図のリンクや、計画概要、「設計中」「建設中」等、物件ごとの進捗状況一覧を誰でも閲覧できる。このように住宅再建に向けた各種取り組みの進捗を見える化するなど、引き続き住民にオープンな情報提供が求められる。
また応急仮設住宅からの移行をどう進めるかも重要な課題である。例えば仮設住宅の中では震災後に新たなコミュニティを築いているところもあり、そこでの人間関係や生活環境、各種支援が継続されることが望ましい場合もあるだろう。現地の状況を汲み取るため、市町村、県とNPO等が役割分担をして、仮設住宅から復興住宅への連続性をサポートする体制も必要だろう。
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