社員の知恵で、想定赤字を1億円以上圧縮
三陸鉄道株式会社(社長・望月正彦)は、4月に田野畑~陸中野田間を復旧。これで久慈~田野畑間が繋がり、全107・6㎞のうち、およそ61㎞がつながった。再来年の14年4月には全線復旧を予定。復旧に必要となる100億円を越える費用は、国が負担し、復旧の道筋がついている同社だが、目下の会社経営には課題が残る。
三陸鉄道は、株式の48%を岩手県が、19・3%を沿線の市町村が持つという、公共性を持つ第三セクターであり、公共交通を安心・安全かつ安定的に運営する責務が課せられている。しかし一方で株式会社、つまり営利団体としての側面を持つ。中・長期的視点から被災路線の復旧を急ぎつつも、短期的には今年の経営をいかにやりくりしていくかに取り組まなければならない。収入の基盤となる運輸収入は当然落ち込むことが見込まれ、「(前年から)1・5億円はマイナスになるだろうと思いました」と望月社長は当時を振り返る。
震災後の1年間(2011年度)の輸送人員は前年の年間85万人から30万人弱まで下がり、運輸収入は1億円弱と前年度からマイナス約2億2千万円となった。そのままでは望月社長のマイナス1・5億円の予想を上回っていただろう。だが、実際は、そうはならなかった。乗車券の通信販売で1400万円、津波で損傷したレールを切り分けた「復興祈願被災レール」の販売で2400万円、オリジナル商品の販売で1500万円、企業や自治体向けに被災地フロントライン研修の企画実行で1千万円など、その他の関連事業の売上が伸びた。同時に経常経費を1億円近く下げたこともあり、結果的には前年度のマイナス2千万円で収まった。 ひとえに経営努力の産物と言える。これら数々のアイデアは社員から提案され、実現したという。「自分の食いぶちは自分で稼ぐように言っているんです」と望月社長はこともなげに話すが、社員一人ひとりの当事者意識の強さと、それを受け入れる企業の体質があって初めて実現することだ。会社として一枚岩になっていることがうかがえる。しかし、一方で「こういった収益は一種の特需のような面もあります」と氏は懸念する。今回のような「サイドビジネス」が長く続くとは思っていない。これから5年先、10年先を見て本来の「輸送」をどう立て直すかが鍵になる。望月社長は、本業の立て直し、そして、その過程でローカル線として果たすべき役割に深く思いをめぐらせている。Tweet