1976年に「みやぎ民話の会」を結成した小野和子さんは、宮城県内で民話を語ってくれる古老を探し出し、話を聞き取って記録する活動を長年続けてきた。
聞き集めた話は数知れず。夜遊びに出た亭主を独り待つ嫁さんに襲いかかる叫び声『戸ぉあけろー』は怪談話、『屁ったれ嫁ご』は、大きな屁を放つ嫁さんの面白くて痛快な笑い話、他にも南三陸の志津川町入谷に伝わる、山姥との約束を守るなら無限の富が得られるはずだった『山姥の万年機』など、どれも長い年月の中、山の村や海辺の町で語り継がれてきた民話である。
自身の編書『みちのく民話まんだら』の中で小野さんは、「民話は先祖の生活の中にある喜びや、哀しみ、苦しみを長い時間かけてとろ火で煮詰めるようにつくりあげた種。それは受け取った人の胸に芽吹いて、それぞれの花を咲かせます」と記している。
民話には、現代にも通じる人間の喜怒哀楽が込められている。この震災で、形あるものは、奪われてしまった。しかしこれまで先祖が残してくれた多くの民話が、庶民のぎりぎり生活の現実を背景にして一話一話生まれてきたのと同様に、大震災大津波での経験は貴重な記録として長く語られる中で、民話として再構築されていくことになるのかもしれない。「みやぎ民話の会」では、昨年8月、地震や津波の経験を語り聴く会を開催。その様子を記録集として出版している。
民話は、最後に「こんでえんつこもんつこ、さけた」で結ばれる。「これでお話は、おしまい」という宮城県内でよく使われる語り収めの言葉だが、「これで一期栄えた」が訛ったもので、話の主人公の一生が繁栄したという意味があるそうだ。
東北の民話はこれからも過去と未来をつなぎ、次世代の繁栄を願いながら長く受け継がれていくだろう。
取材・文/葛西淳子(仙台・市民ライターグループ「おかきプラス」)
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