福島県須賀川市の伝統行事『松明(たいまつ)あかし』の会場では、こういった掛け声を頻繁に耳にする。他にも「新潟」や「いわき」という地名も聞くことができ、何事かと不思議に思う。
松明あかしは日本三大火祭りの一つで毎年11月の第2土曜日に開催される。およそ420年前の天正17年(1589年)に奥州の覇者・伊達政宗に攻め滅ぼされた須賀川城城主二階堂家の霊を松明に火を点して弔った事から始まっている。
現在の松明は全長10メートル、直径2メートル、重さ3トンの大松明や、一回り小さい姫松明など約30本の松明が作成される。
「松明あかしの魅力は人が松明を作り、人の力で運び、人の力で立て、人が火をつけることです」と「松明をもりたてる会」の佐藤会長は語る。
竹で作った骨組みに大量の乾燥したカヤを詰め、松明は作られる。この松明を市内の大通りを神輿の様にして運ぶ。一番大きな大松明は持ち上げるのに150名以上の運び手が必要になる。
市内を練り歩いた後、会場の五老山まで運び、人の手だけで松明を立てる。
3トンの松明を人の力だけで運び、立てる事は、一つの間違いが事故に繋がるため、150名が的確な指示で同じ動きをする必要がある。
この時の動き方の指示で使われるのが、冒頭で紹介した4つの地名だ。須賀川市から見て北が「仙台」、南が「東京」で、東が「いわき」、西が「新潟」となる。指示する際、方角よりも、地名を使う方が地元の人にとっては直感的で分かりやすいのだと言う。
全ての松明が立てられる頃、日は暮れ、巨大な松明が神秘的に夜空に浮かび上がる。須賀川城本丸跡に建てられた二階堂神社から御神火が運ばれ、登り手が大松明をよじ登り火がつけられる。燃え上がる松明の勇壮な光景は訪れた見物客を魅了する。
今年の松明あかしは11月10日に開催。燃え上がる鎮魂の松明を楽しむとともに、大声で呼ばれる各地の地名に耳を傾けてみてはいかがだろうか。
取材・文/西名清蔵(ふくしま観光ジャーナル)
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