宮城県石巻市雄勝町は、町内唯一の病院であった市立雄勝病院が震災で全壊し、無医・無歯科医地区になってしまった。人口は震災前の3分の1になり、専門職を担う人材も減少した。しかし、地元の医療関係者の熱心な誘致活動もあり、昨年9月に念願の診療所が開設され、大阪市から医師の小倉健一郎氏が着任した。その後、今年6月には歯科診療所も開設され、長野県から歯科医師の河瀬聡一朗氏が着任した。2人は、震災直後から被災地で医療支援を行っており、今回雄勝町の医療再建を目的に石巻市に移住した。
雄勝歯科診療所所長の河瀬氏は、「震災から1年3ヶ月の間、定点での歯科診療がなかったため、来所される患者さんの口の中はひどい状態。よくここまで我慢をされていたなと思う患者さんばかりです」と言う。口の中が不衛生になると、むし歯や歯周病などが進行するだけでなく、全身疾患を引き起こす可能性がある。特に飲み込む機能や咳をして吐き出す力の衰えた高齢者は、口の中の細菌が誤って気管から肺に入ることで発症する、誤嚥性(ごえんせい)肺炎の危険性が高い。阪神・淡路大震災では、2000年5月24日付け神戸新聞によると、災害関連死の死因第1位は肺炎(24・2%)で、その多くは誤嚥性肺炎であった。
また、厚生労働省が発表した昨年の死因順位によると、これまで4位であった肺炎が3位になり、肺炎による死因が年々増え続けている。高齢者の肺炎の8割が、誤嚥性肺炎と言われており、口内の清潔を保つことは重要な予防策の一つである。
東日本大震災で被害のあった地域は高齢者が多く、震災前から過疎化が深刻であったがさらに過疎が進み、復旧・復興には地元の力だけでは難しくなっているのが現状だ。医療や福祉の現場においても、例外ではない。被災した医療機関の8~9割は復旧したと言われているが、現実は、仮設診療所であったり、医療従事者が不足しているという問題がある。減少してしまった医療従事者を他府県から補充するといった人的支援や、被災した医療機関再開のための物的支援および経済的支援、さらには治療中心の医療から予防中心の医療の拡大が求められる。震災で助かったいのちを守るために、そして被災地が復興へ進むために、今後もあらゆる面において、支援が必要であろう。
取材・文/高藤真理
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