狙い2:地域の高齢者や障がい者の地域社会への参画を促す
10月7日、女川町商工会は、女川町健康福祉課と協力して、町内の運動公園から商店街までの総3・9キロメートルを歩く女川町健康ウォークラリーを開催し、定員満員の100人が参加した。
震災以後、外出機会が減ってしまうことで、身体の機能が低下する生活不活発病などの問題が指摘されている。このウォークラリーは外に出て運動するきっかけづくりとして行われた。また、ゴミ拾いも並行して行われ、健康を促しつつも地域への貢献活動も行われた。参加者には地域通貨が配られ、さらにその中から、最年少の子供、最高齢のお年寄り、適切な歩数で目的地まで到達した人など、およそ40名の住民に特別賞として地域通貨が配布された。
高齢化が進む日本では、高齢者も社会活動に参加して、地域の人と積極的に交流をするということが重要になってくる。今回のウォークラリーもその活動の一環でもある。また、「手芸教室」の講師なども、社会活動の一つであるが、担い手が不在という課題がある。地域通貨は、このような社会活動の担い手として、従来は非労働人口として数えられていた高齢者に、社会参画を促す潤滑剤としての機能を持つことも期待されている。
今回のウォークラリーにともなう地域通貨の受け取りに関してのアンケート結果は「表1」。最年少は4歳、最高齢は76歳が参加し、参加者ほぼ全員が好意的な回答をし、「活動の証となり嬉しい」(68歳男性)、「いろいろな方面で復興の兆しが見えて嬉しいです」(61歳女性)などコメントがあった。
狙い3:観光客やボランティアなど町外の人たちの町内の消費を促す
また、町外の人たちの町内への消費を促すことにも期待がある。地域通貨の利用方法として、ボランティアの人たちへのお礼として渡すことが想定される。何かをしてもらったお礼としてお金を払うとなると、それは「労働の対価」となる。労働の対価となった際、心理的にも最低賃金法の観点からも、今の日本において、例えば1日の労働が1000円ということは難しい。しかし、感謝の気持ちの表れとして地域通貨を使うのであれば、こうした問題はなくなる。「ありがとう」の言葉に勝るというわけではないが、感謝を一つの形として表すことができるのだ。
そして、これが地域通貨によって払われることによって、地元の商店街等での買い物が促されるという効果が期待される。もらった地域通貨がきっかけとなり、さらなる買い物の呼び水になるだろうからだ。被災地の外からボランティアに来た人たちは、そのボランティア先だけで活動が完結してしまい消費活動をしない事が多いという。
先だって、町内のお祭りでの出店ボランティアを務めてくれた、女川町で活動するNPOカタリバの学生スタッフにこの地域通貨が贈られた。地域通貨の500円をもらうことで「これはどこで使えるんですか?」などの質問が出て、ボランティアが地元商店に足を運ぶきっかけとなったという。
震災後、女川町にも多くの支援者が訪れた。外部からの支援活動は一過性のものになりがちだが、活動が終わって、離れていても、いかに関わりを持ち続けてもらうかという課題がある。町外からの観光客・ ボランティアの人々にこの地域通貨を贈ることによって、女川という地域を思い出してもらうきっかけに繋がりそうだ。
観光客の消費を促すという面では、観光協会と旅行会社の提携により、バスツアーの旅行費用の一部を地域通貨に充当する試みも始まった。来年の2月末までに、現在20件800名以上に、地域通貨を贈るバスツアーが企画されている。こうした地域通貨の流通による住民参加型の地域の支えあい活動や外貨獲得の工夫が、地元商業の活性化にも繋がってゆく。
支えあいを継続する仕組みづくりとしての地域通貨
「気持ち」から動いてくれる人はとても尊いが、それだけでは長続きするとは限らない。継続のためのインセンティブが必要だ。この地域通貨は、それぞれの「役に立ちたい」「支えあいたい」という思いや活動に価値を付与して、地域住民相互の参加を促し、継続させるための「仕掛け」なのだ。
地域活性は、被災地はもちろん、日本全体が抱える大きな問題の一つだ。現在女川町をはじめとする被災地には多くの外部支援者が訪れているが、支援がなくなったときにも、地域の支えあいが機能し続ける工夫を模索していかなければいけない。
今回の地域通貨の試みは、内部的には地域住民の交流を活発にし、外部的には継続して関わり続けてくれる人を増やすことを目指している。特に、これを地域内のいくつもの団体が連携し多方面から支援していることに妙がある。今後の展開として、「さらに、行政やNPOとより連携して女川を活性化できたらと思っています」と商工会の遠藤進さんは話す。年度内にまた地域通貨の利用を促すようなイベントを開催する予定だという。まだ始まったばかりの活動だが、地域作りの好事例として成長していくのが楽しみだ。
Tweet