インタビュー先:工藤 啓さん
NPO法人「育て上げ」ネット 代表理事
雇用問題。就業だけを求めずに、コミュニティやつながりづくりを
Q.被災地で就業が進まない、雇用のミスマッチが問題視されています
いま世の中の評価指標は、就業したか否かという分かり易いものだけになっています。しかし、1人の人が就業するまでには多くのステップがあります。被災して多くの傷を負った地域の人たちこそ、いきなり仕事に就くことを求めすぎず、丁寧にステップを踏んでいく必要があると感じています。例えば、仕事には「稼ぎ」と「勤め」の2つの要素がありますが、まず勤めを果たす、地域なりの役割を果たせる状態をつくることなどが重要です。Q.具体的にどのような取り組みが有効でしょう
直接的な就業支援だけでなく、その前にコミュニティづくりや、人と人のつながりや絆を育てる施策が必要でしょう。今はそこが抜け落ちているため、働くことと向き合えない方も多いのだと思います。
私どもが従来から行っている就業支援では、「働き続ける」ための支援に注力しています。仕事を辞める理由は人間関係が大半です。働き手が人間関係構築力を養い、ソーシャルキャピタルを蓄積するために、例えば地域の祭りなど、人と触れ合う機会や場を提供しています。
Q.ただしそうしたソフト的施策は評価されづらい現状もあります
何かをやった時にどうなる、だけでなく、やらなかったらどれだけのマイナスがあったのかという考えを前提とすると、評価指標が変わってきます。分かり易いイチゼロの指標だけでなく、最終的に就業につながるまでに必要なステップを理解し、例えば笑顔が増えたとかそういった効果にも目を向ける。
現在実施している就労支援プロジェクト「東北UP」でマイクロソフトが取り入れているSROI(社会的投資収益率)という手法は、こうした効果を定量化し貨幣換算するもので、今後注目したいです。
Q.資金が枯渇し活動を継続できない団体も増えてます
復興予算は削られるかもしれませんが、雇用対策については削られる可能性が低いでしょう。被災地や復興という文脈だけでなく、社会に働き手を増やすということをフックにコミュニティやつながりづくりの活動を行うべきだと考えます。今まで培ったこの分野での予算確保や情報の取り方などのノウハウを活かして、これからも地域の活動団体の自立を支援していきたいと思います。
【NPO法人「育て上げ」ネット 工藤 啓代表理事プロフィール】
若者への就労支援として、地域若者サポートステーションの運営などを行っている。震災後はマイクロソフト社のITを活用した就労支援プロジェクト「東北UP(アップ)」の事務局を担当し、地域団体の事業を支援する。