エコツーリズム先進事例に学ぶ 田野畑村の体験型観光

取り組み10年。集客年8千人、村人の10%が参画、ガイド副収入130万円……。成功のポイントを聞く

観光復興が盛り上がる中、自然や漁業などの産業、東北の生活を体感してもらう、エコツーリズムが一つのトレンドになってきている。

岩手県の北部沿岸の田野畑村は、サッパ船アドベンチャーズ・ネイチャートレッキング・民泊など、年間約8千人が体験するさまざまなプログラムを実施している。村としての観光収入は年約2千万円。人口4千人弱のうち10%近くの村人が参画しており、漁師はサッパ船のガイドをすることで年130万円の副収入が得られているという。これらの成果が生まれているポイントを取材した。

10年前から滞在型・体験型観光に着手

話を伺った、NPO「体験村 ・たのはたネットワーク」の 楠田拓郎さん(31)。東京から 移り住み6年。もう一人の 専任スタッフも横浜出身だ。

話を伺った、NPO「体験村 ・たのはたネットワーク」の 楠田拓郎さん(31)。東京から 移り住み6年。もう一人の 専任スタッフも横浜出身だ。

東北屈指の景勝地・北山崎を見に訪れる人は、年間約50万人いたといわれる。ただしいわゆる「通過型」観光で、地元田野畑村への経済効果は低かった。そこで2004年、観光客の滞在時間を増やすため、体験型プログラムを検討する協議会が村内に発足した。

しかし村人にとって北山崎の風景も、断崖を見上げながらの漁業も、番屋(漁師の作業小屋)群も、酪農もすべてが日常。外からの視点が必要と、協議会の推進役には他市から村に移り住んだ人が選ばれ、行政側も他県で体験型観光に取り組んでいた職員を迎え入れた。さらに他県のNPOも招聘して助言をもらい、サッパ船ガイドや番屋ツアーなどの体験型プログラムが生まれていった。

2年程経って地元のテレビ局から取材されるなどで認知度が上がり、旅行会社でバスツアーも組まれ始めた。専任スタッフの雇用が必要になり、2008年に協議会からNPOに法人化。その頃から小中高生の民泊の受け入れも開始した。

北海道・知床から、エコツーリズムを行っている NPO・SHINRAの皆さんを招き、プログラム 作りやガイド手法について助言をもらった。

北海道・知床から、エコツーリズムを行っている NPO・SHINRAの皆さんを招き、プログラム 作りやガイド手法について助言をもらった。

震災で大きな被害を受けたが、できるものから順次再開し、現在は北山崎の観光に加え、体験型プログラムだけで年間8千人を動員。NPOのスタッフは6名(2名が専任、他は緊急雇用とパート)で、北山崎にあるビジターセンターの運営や各プログラムの受け入れ、宣伝などを行っている。

POINT 1 他県のプロに商品化・ガイド手法を学ぶ

04年の協議会発足当時に考えたプログラムは、わら草履作りや牛小屋での搾乳、わかめのしゃぶしゃぶ体験など、田野畑らしさが出しきれていなかった。そんな折、厚労省の雇用促進事業で下りた補助金を使って、北海道・知床でエコツーリズムを行っているNPOを招聘し、精査してもらった。料理体験は番屋で行う方が雰囲気があっていい。森のトレッキングはどこにでもあるので200メートルの断崖を歩く方がいいと。サッパ船と番屋のプログラムもここで生まれた。殺風景だったビジターセンターも生まれ変わり、各プログラムのガイド手法についても、開始の挨拶から安全の注意、ポイントごとの解説まで徹底的に指導してもらった。

POINT 2 宣伝は紙媒体を重視。表現はプロに任せる

現在のビジターセンター。プログラムの案内や、 時期ごとの動植物の紹介コーナー、魚の漢字や 方言クイズなど、来た人を楽しませる工夫が。

現在のビジターセンター。プログラムの案内や、 時期ごとの動植物の紹介コーナー、魚の漢字や 方言クイズなど、来た人を楽しませる工夫が。

村が発信する「番屋エコツーリズム」は、フェイスブックページも充実しているが、NPOスタッフの楠田拓郎さんは意外にもウェブより「まず紙」と言う。

東北を訪れる人は、景色や食、温泉といった趣向や、移動に時間がかかる面からも年配が多い。そうすると紙媒体が有効になる。特に旅行会社のパンフレットは何千部と配布されるうえに掲載は無料。今はパンフレットを旅行計画の参考に使う人も多いので、そこにプログラムが載っていれば、直接の集客に繋がると。

楠田さんは「まずは旅行会社がパンフレットに載せたいと思うような面白いプログラムを作ることが大切。それをどう見せるかは、プロである先方にお任せしています」と話す。目下の課題は、写真に出にくい魅力をどう説明するか。「例えばサッパ船の魅力は景色だけでなく、漁業についての学びや漁師の人柄、語り口、操縦の腕。実際は、いい笑顔の漁師が1時間案内するだけでほとんどのお客様が満足してくれます。そういうソフトの部分をもっとうまくアピールしたいですね」。

POINT 3 村人の参画はまず体験してもらうこと

漁師の操縦する磯船で北山崎を進む「サッパ船アドベンチャーズ」。 田野畑で人気のアトラクションだ(約1時間で1人3500 円)。

漁師の操縦する磯船で北山崎を進む「サッパ船アドベンチャーズ」。 田野畑で人気のアトラクションだ(約1時間で1人3500 円)。

田野畑村が体験型観光に取り組んで約10年。観光収入はトータルで年100万円程度から2千万円に増え、現在6名いるサッパ船のガイド収入も1人当たり年30万円程度から130万円に。ガイドは全員本業が漁師なので、早朝に漁をした後の時間を使った副収入になる。

参画する村人も増え、ネイチャーガイドや津波語り部など含め約50人が随時、その他民泊の受け入れや料理体験の手伝いなども合わせると、人口4千人弱の村で10%近い村人が何かしらの関わりを持っている。

村人の参画に必要なのは「お客様が喜ぶ姿を実際に見せること」だという。例えば番屋ツアーも、最初はガイドの漁師探しに苦労した。全てが当たり前で話すことなどないと。そんな時、楠田さんはとにかく現場に来てもらい、自分がガイドして見せながら分からない部分を漁師に振った。「このロープの太さの違いは?」漁師が説明すると参加者から「おおー!」と歓声。その反応に途中から火がつき、終わる頃には立派なガイドになっているという。

サッパ船ガイドの皆さん(現在は6名)。彼らの漁師としての 経験や知識に加え、人柄・語り口・表情も立派な観光資源だ。

サッパ船ガイドの皆さん(現在は6名)。彼らの漁師としての 経験や知識に加え、人柄・語り口・表情も立派な観光資源だ。

このように楠田さんらスタッフは、外から来た人が求めるものと村人の常識の差を埋める努力をしてきた。小中高校からの体験学習に対し現在80世帯が受け入れ登録している民泊でも、村人たちは「ご馳走作らなきゃ」「普段9時に寝るけど今の子は夜遅いよね」などと言う。それに対し、普段通りの生活をして、家の手伝いをさせてとお願いする。食事も質素なものでいい。一緒に作ると、子供たちは今まで食べなかった煮物も酢の物も残さず食べる。数回経験すればそういった民泊の意義を掴んでくれるという。

POINT 4 状況を見て検証・改善を繰り返す

プログラムを作って実行し、期を見て変える。田野畑村ではこのサイクルがうまく、早く回っている。

例えば語り部ツアーは、震災後の8月と早い時期から開始。4ヵ月で1600人もの集客があったが、今は減少傾向にあるためすでに方向転換に入っている。

楠田さんは言う。「これからの語り部は、過去の事実と共に、現在と未来の話をしなくては。震災後どう取り組んできて、今後は何を目指すのか。それこそニュースでは分からない、現地だからこそ聞ける話じゃないかと思います」。

効果が出るまで3年は我慢の時

2011 年8 月から開始し、4ヵ月間で1600 人を動員した 「大津波語り部」。今後は、今と未来を語る内容にしていく。

2011 年8 月から開始し、4ヵ月間で1600 人を動員した 「大津波語り部」。今後は、今と未来を語る内容にしていく。

最後に、今後エコツーリズムに取り組みたい人へのアドバイスを聞いた。

「よくあるのは、行政の事業や補助金に乗って始め、1~2年で予算が尽きて諦めてしまう例です。でも効果が出なくても3年は頑張って欲しい。僕たちも4年目から伸びました。行政としっかりタッグを組み、5年は面倒を見る覚悟をしてもらってNPO側も必死にやる、それが理想ですね」。

田野畑村の今後の課題は、ガイドの新陳代謝だという。例えばサッパ船ガイドは平均60歳。20年先を見据え、若手漁師へのアプローチや、外部の志願者を募るなどの手を打ち始めている。

成長・進化を続ける田野畑村。多くの地域に参考になるヒントが数多くあった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です