”So the first one we look at is what can I do in the short term ……”
髪を短く切りそろえた筋肉質な男性が両手を広げて話し始めた。声は低いがよく響き、とても早口だ。それを彼の脇に立った男性が通訳する。「僕らの説明するプランは2つあります。1つは短期的にどうやって人を集めてくるか。2つめには、そうやって集まってきた人を長期的で持続可能なものにつなげていくかです」。
これはアメリカの名門大学院、ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)の学生グループが訪れた、福島市のフルーツライン沿いのあんざい果樹園でのシーンだ。あんざい果樹園は、りんご、なし、ももなどの果物を生産している。彼らはビジネススクールの海外体験プログラムの訪問先として東北を選び、この日、あんざい果樹園を訪れた。
彼らがプレゼンテーションをしているのは、震災前より半減以下になった売上を戻していくにはどうしたらいいか? また、施設内のコミュニティスペースを運営していくにはどうしたらいいか? というテーマだ。17人が4つのグループに分かれて提案を行った。
野球の大会などの地域に根ざしたイベントを開催して、地元へのファンや協力者を募っていく。地域の名前……「ニワサカ」をフルーツのブランドとして育てていく。「ひょっとして既に実行しているかもしれませんが」という前置きをした上で、放射能検査済みのシールを貼って出荷する……など。この他にもフェイスブックを活用したプロモーションなども提案された。
HBSの学生と聞けば、「世界で一番頭の良い人たち」という印象を持つ。「最初は、私にはとても実行できないようなことを提案されるのではないかと思っていました」と、コミュニティスペースを運営する木下真理子さんは話す。でも、実際は、どれも実現できそうなものだった。それも、相手の状況も加味した上で現実的なプランだ。
実際に会ったことで、「ハーバード・ビジネス・スクール」という言葉への印象は変わった。「これから世界で活躍していく人たちに、今、私たちが抱えている問題を、情報としてではなく実際に会って伝えられたことは貴重だと思っています。彼らが持つFUKUSHIMAのイメージに何か一つでも良い変化をもたらしたのなら」と木下さんは振り返った。
写真・文=岐部淳一郎
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