富士通は在宅医療・介護向けクラウドサービス「高齢者ケアクラウド」の提供を開始した。震災直後から同社が取り組んできた復興支援の取り組み成果として、高齢化に直面する日本の社会問題解決へ向けたソーシャルビジネスが生まれた形になる。
いかにして支援活動がビジネスへとつながったのか。直後から現地に入り復興支援とサービス開発を行ってきたソーシャルクラウド事業開発室、生川慎二(なるかわしんじ)氏に話を聞いた。
ほとんどはICT以外の作業
富士通は震災直後の3月15日に災害支援特別チームを発足させ、必要とされる支援を展開してきた。避難所におけるニーズ調査を行った「つなプロ」に始まり、日本プライマリケア連合学会によるボランティア医師派遣プロジェクト、医師や介護士、保健師などが連携して地域包括ケアにあたる石巻圏健康・生活復興協議会(RCI)など、多くの現場で同社のクラウドサービスが活用された。
ICTを活用したクラウドによる支援はいかにも富士通らしいと言えるが、生川氏は、「やってきたことのほとんどはICT以外の作業」と言う。「システムを要件通りつくって納品すれば終わりという訳にはいかない。何が困って何が必要かを考えるためには、現地と信頼関係を築くことが何よりも大切」。現地に拠点を置いて、必要物資を社内外で集めての提供や、地域との調整、データ入力作業など、できることは何でもやってきた。災害支援チームは数億円の予算をかけ昨年3月までの1年間継続したが、この間に築いた現地との信頼関係がその後の事業化につながっていく。
共感だけでは継続性はない
2011年4月に災害支援チームを吸収する形で発足したソーシャルクラウド事業開発室。週の約半分を石巻市・女川町で過ごしながら、RCIや在宅医療に必要なシステムの開発を行ってきた。予算を持った事業部として早期に結果を出すことが求められる中、初年度でのサービスリリースも達成した。「ソーシャルビジネスは10年後の社会に必要なサービスをつくるもの。回収の時間軸があわず初期投資のハードルが高いケースが多いが、我々は復興支援の1年間のアドバンテージがあった」。
今回発表のクラウドサービスは、高齢社会に必要な在宅医療サービスやコミュニティを支えるもの。被災地だけでなく日本が近い将来迎える課題の解決を目指すものだ。生川氏は「社会課題は共感を生みやすいが、それだけでは足りない。継続のためにあらゆるリソースを持ってこなくてはいけない」と、他者との連携の重要性を強調する。今回のサービスは、国のプロジェクトの枠組みを活用したほか、現地で活動する医師、看護師、介護士、生活支援NPOらとの連携によって実現したものだ。
社会課題を解決するイノベーションを生み出すのは、個人や一企業では難しい。他者と連携しながら、地域に根ざした実践の中で解決策を生み出した、富士通のソーシャルビジネスへの取り組みから、学べるものは多いだろう。
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