新潟県南部、十日町市と津南町からなる人口7万人の地域、越後妻有。山間部の傾斜地に棚田を切り開いて農業を行なってきた。過疎化も深刻だった。
この里に光を当てたのはアートだった。2000年から3年に一度開催されている『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』。里山全体を会場に見立てた約50日間の祭典の来場者数は、初回から12年を経た昨年の第5回で約3倍の50万人。その経済効果は48億円。国内海外からファンが詰めかける国際芸術祭に成長した。
プロジェクトが県の助成事業の1つとして発足した1994年当時は、アートによる地域づくりの事例もなく、100人いた議員は全員反対、200ある集落で参加の手を挙げたのはたった2つだった。主催者とボランティアたちは4年半かけて2千回以上の説明会を開き、家々を回って理解を求めた。回を重ねるごとに状況は変わり、お年寄りたちがアーティストの作品作りを積極的に手伝い、観光客とも語り合うようになった。今ではこの地元の人との触れ合いが大きな魅力となりリピーターを増やしている。
都会と地方が、互いの足りないものを交換する
50万人の集客、交流人口の増加、若いNPO職員約30人の移住。しかし、これら10年の成果を持ってしても、越後妻有の人口減は止まってはいない。東北でも人口の増減が一つの評価軸になることも多いが、これに対し、芸術祭を運営するNPOの原蜜さんは新しい考え方を投げかける。
「日本中の人が、生まれに関係なく複数の”ふるさと“を持って、毎年どこかを旅しながら訪れる、祭りに参加する、年寄りの手伝いをする、関わり続ける、そんな形がいいんじゃないかと。人が訪れると、場所は力を取り戻すし、そこに生きる人も元気になります。訪れる人も、都会にはないもの、自然や美味しい野菜や人の温かさ、頼りにされること、分け合うことを味わいます。互いに足りないものを交換するんです」。
東北でも、交流人口拡大のための施策が模索されているが、越後妻有のファンの多さは日本屈指だろう。棚田バンクや古民家オーナー制度、雪の運動会など、外の人が訪れ関わり続けたくなるプログラムを多く用意している。またアートがテーマということもあり、廃校を利用した宿や古民家レストラン、土産物に至るまでセンスとアイデアに富んでいる。東北で地域づくりに携わる多くの人に、ぜひ視察旅行で訪れてほしい。
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