東京から移住し5年、コンサルティングのスキルと世界一周の経験を活かし、「クールな田舎をプロデュースする」をコンセプトに里山の魅力を国内・海外へと発信する山田拓(たく)さんに、話を伺った。
「旅人集団」が里山の魅力を世界に発信
東北や関東の人々にはあまり知られていないが、外国人観光客が挙げる西日本の旅行先に、京都、大阪、広島と並んで「TAKAYAMA」が入っている。岐阜県の飛騨高山は外国人が年間17万人訪れる国際観光都市だ。その理由は、城下町の古い街並みが保存され、酒蔵や老舗商店がのれんを下げて連なる、伝統文化薫る風情にある。路地には、さまざまな国籍の人々がそれぞれの言語で話しながら行き交っている。
さらに驚く光景を見た。飛騨高山の中心街から車で30分、人口1万6000人程の古川町。山、緑、水田、茅葺き屋根の古民家、日本の原風景が広がる里山を、カラフルなマウンテンバイクに乗った欧米人が駆け抜ける。湧水場で自転車を停め、居合わせたお年寄りにガイドを通じて話を聞いている。
ツアー参加の半数が 外国人。人気の理由
ウェブサイトや口コミで外国人ファンを集めているのは、観光コンサルティング会社「美ら地球(ちゅらぼし)」が運営する「飛騨里山サイクリング」。英語の堪能なガイドと共に、田や畑や森、古民家や蔵や町屋、昔ながらの生活の営みを見て回る。シーズン中は月に約1000人になる利用者の、約半数弱が外国人だという。サイクリングの他にも、地元の伝統料理を学べるツアー、大工の棟梁と共に町を歩き古民家や林業の話を聞けるツアー、冬にはかんじきを履いて雪の里山を歩くツアーや、祭に向けて地元の子供から大人までが踊りやお囃子を練習する様を見学できるツアーも。これらが日本人はもちろん、外国人にも受けている。
同社社長の山田拓さん(38)は東京の外資系コンサルティング会社を退職し、夫婦で約2年間の世界旅行をした後 飛騨に行き着いた。2007年に美ら地球を創業。外国人観光客を迎えるインバウンドビジネスを中心に事業展開する。英語のウェブサイト「Rural Japan Explorer」では、外国人向けに日本の里山文化を発信、田舎を巡るオリジナルツアーを提案している。同社で働く8名は、生粋の地元民1名を除くと全員がUターン又はIターン者、かつ海外で1年以上の滞在経験があるという。海外からのインターンスタッフも受け入れており、英語でのミーティングもこなす。
山田さんに観光復興のポイントについて聞いた。「右肩下がりになってきていた旧来の日本型観光の再生ではなく、グローバルな市場のニーズに合わせ変革させることが1つの鍵です。そのために必要な構想・推進体制作りは、その地域しか知らない人や業界関係者のみで進めるのではなく、地域内の他業種、海外の旅行業関係者、旅人、クリエイティブ層などを迎え入れ、共に作り上げることが重要です」。
同社の事業の着想も、旅人ならではの蓄積に基づく。例えばサイクリング事業は、山田さん自身が体験したアフリカと南米のツアーを基にデザインされている。
「日本に来る外国人は旅の玄人。彼らが求めるのはそこでしかできない体験なのです。東北も、地域が昔から受け継いだ叡智に加え、震災から復興する人々のアイデンティティとそれに基づいた活動。それらを活かし、見せ、体験する基盤を創ることができれば大きな魅力になると思います」。
ウェブサイトや口コミで外国人ファンを集めているのは、観光コンサルティング会社「美ら地球(ちゅらぼし)」が運営する「飛騨里山サイクリング」。英語の堪能なガイドと共に、田や畑や森、古民家や蔵や町屋、昔ながらの生活の営みを見て回る。シーズン中は月に約千人になる利用者の、約半数弱が外国人だという。
サイクリングの他にも、地元の伝統料理を学べるツアー、大工の棟梁と共に町を歩き古民家や林業の話を聞けるツアー、冬にはかんじきを履いて雪の里山を歩くツアーや、祭に向けて地元の子供から大人までが踊りやお囃子を練習する様を見学できるツアーも。
古民家を残す地道な保存活動
よそ者視点、旅人視点で価値を感じるものでも、効率化・過疎化などの理由で日本から消え去りつつあるものも。飛騨には、高い技術を持った匠の伝統を受け継ぐ木造建築が多く、江戸・明治期から残る古民家も少なくない。山田さんらは09年から3年間をかけ、飛騨市と高山市の築50年以上の家屋約1200戸の聞き取り調査を実施した。結果3割以上が居住者2人以下。高齢の住人が多く20年後には半数近くが空き家となる可能性を予測した。そこで美ら地球が始めたのは、「飛騨民家お手入れお助け隊」。全国から集まったボランティアで古民家の清掃・手入れを行い、貴重な伝統家屋を後世まで残したいと活動している。また最近は、空いている古民家にインターネットなどの設備を整え、数週間から企業などに貸し出す「里山オフィス事業」も開始。都会の喧騒を離れ仕事をしたいIT関連企業やデザイナー事務所などが早速利用し、問合せも相次いでいるという。
移住者拡大のための施策も
交流人口の拡大に加え、同社は移住者の拡大にも取り組む。3月には学生・社会人・外国人向けに3回のセミナーを開催。参加者は町を見学し、移住者の体験談を聞き、理想の暮らしについてのワークショップ、地元の人々を交えての懇親会を行った。
「全ての回が定員オーバーで、都市住民の地方への関心の高まりを感じました。一方、古民家物件はあるか、仕事はあるのかとの質問も多く、都市部生活的な個人視点の強さも実感。集落との協調性など、地方の住民視点を理解している人は少なく、このミスマッチをなくす必要性を感じました」。
現在は町内会の役員を務める山田さんだが、自身もこの5年、地域を学び、受け入れてもらう努力を積み重ねてきた。地域に外から人が入ることでもたらされるものとはどのようなものだろう。
「どの地域にも、よそ者や新しさといった『異質』への敬遠はあります。ただ、地域にそれまで存在しなかったから『異』なわけで、実は地域に必要とされる機能を担える可能性があります。特にプロデュース、マネジメントを担えるなど、地域の未来を共に創れる人材が来てくれれば、可能性は広がると思います」。
日本の里山は世界の注目の的
飛騨古川には世界中から里山文化に関心を抱き、研究する訪問者が続いている。 昨春、シンガポールから都市計画の専門家、昨秋、北欧からサステイナブル・コミュニティの研究者と、飛騨古川には世界中から里山文化に関心を抱き、研究する訪問者が続いている。
「ノスタルジックに『古き良き』ゆえに残すべきという視点ではなく、『持続可能な社会』に必要な要素が里山にあるという認識が進んでいます。例えば茅(カヤ)は収穫後、雪囲いに使われ、乾燥させて屋根材に使われ、その後は家畜の餌となり、排泄物は農作物の肥料となる。こういった循環型の暮らしは日本の地方に多く残っており、これから世界中の社会で必須の考え方となるはずです。そこで今、地方に必要なのは『地域らしさの再認識』と、そこに継続的に人が住み続けていくために必要なだけの『食・エネルギー・金を稼ぐための職』をどう確保するのかという議論を地域内で持つこと。その際に、戦後導入された米国型の考え方ではなく、戦後日本の高度経済成長期と比較するのでもなく、地域が本来持っていたものをベースにする。そこに、小規模な集落単位での持続モデルを追求するスイスなどヨーロッパの事例を学びながら、必要な要素を組み込んだ新たなライフスタイルを目指せたらいいと思います」。
散策し、豊かな町だと感じた。自然があり、野菜の物々交換など田舎の生活の営みがある。お年寄りと移住した若者、外国人が和やかに会話をしている。5年後、10年後の東北のヒントに、ぜひ町づくりや観光に携わる人々に訪れてもらいたいと感じた。 Tweet
古民家でパン屋をしたいのですが、パン屋をさせてもらえる古民家はありますでしょうか。