津波によって漁船や漁具はすべて流され、両浜あわせて2軒あった牡蠣の剥(む)き場も壊滅的な被害を受けた。昔は牡蠣の養殖や定置網漁を行う活気ある漁港だったが、漁業者は震災前で10世帯、震災後は5世帯にまで減った。
震災後、両浜の漁師が共同で漁業を再開。地盤沈下した護岸のかさ上げを経て、昨年12月に牡蠣の剥き場が再建された。
そして今年2月から、この牡蠣の剥き場を、元ホームレスや生活保護受給者など、就労困難者向けのトレーニングの場として活用する試みが始まった。折浜・蛤浜の漁師たちと、震災直後から浜を支援し続けてきた公益財団法人共生地域創造財団(FCCC)が共同で立ち上げた。
このプロジェクトのねらいは、大きく3つある。一つは就労困難者へ研修や社会参加の場を提供し、社会復帰の後押しをすること。継続して関われるよう、日当も支給する。次に、漁師支援。プロジェクトで扱う牡蠣をFCCCが買い取り、漁師の収入源担保と、新たな販路開拓を行う。最後に、漁業に関わる人を増やし、人材不足を将来的に解消することだ。
仕組みはこうだ。折浜・蛤浜の漁師がFCCCに剥き場の一角を貸し出し、そこに就労困難者が研修生として通う。研修生は、漁師たちが収穫した牡蠣の殻を洗って箱詰めし、それをFCCCが買い取る。牡蠣は、浜にボランティアで訪れた人など、浜と縁深い人をはじめ、消費によって浜の漁業を支援したいと望む全国の消費者に届けられる。
蛤浜の漁師、亀山秀雄さんは「今までたくさんの方にお世話になったけれど、その方たちには直接恩返しができない。研修生へ場所を提供することで、役に立てればこんなうれしいことはない」と話す。
折浜・蛤浜の漁師たちの「恩送り」(誰かから受けた恩を、直接返すのではなく別の人に送ること)の想いを、FCCCによる地域密着型支援が支える。
一方的・一時的な支援ではなく、ヒト・カネ・モノが循環するこの仕組みは、継続可能で、他の産業にも転用できると、FCCC事務局長の蓜島(はいじま)一匡さんは話す。
浜から出荷される殻付き牡蠣の販売想定価格は、2キロ3千円。まずは、5月末までに2千箱の販売を目指し、利益を今後の研修費用に還元する。
この事業モデルは、漁師や就労困難者、一般消費者など、関わる人誰もが損をしない。試みの運用はまだ始まったばかりだが、今後も携わる人たちを増やしながら、就労困難者の未来と、後継者不足に悩む漁業をつなげて解決に導く一手になるだろう。
文/瀬名波 雅子
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