震災直後から被災地向けのボランティアツアーを催行し続けたJTB。2年でのべ8千人が参加し、「旅行会社のツアーだったら安心」と新たな参加者が増え続けている。しかし震災から3年目の2013年は、新たな挑戦の年だという。
ツアーに「ワクワク感」を
これまでJTBは、継続的に東北ツアーを利用してもらうため、時期によってツアーのテーマを工夫してきた。震災から5ヶ月後の2011年8月には、力仕事のイメージが強かったボランティアを女性向けにアレンジ。瓦礫撤去ではなく写真整理などきめ細やかな作業を行う「女性でも行けるボランティアツアー」を催行した。
ボランティア熱が下がり始めた昨年には、テーマを「大人の修学旅行」に変更。昼にはわかめの収穫、夜には現地の方の講演を設けて「体験型学習」をプロデュースした。夜の講話はあえて車座になって聞くなど、細かい工夫がツアーの価値を高める。「椅子に座って聞くより、思いが伝わり共感できると評判でした」(企画責任者・影山葉子さん)
リピート率向上のため、ツアーには「楽しさ」も盛り込んだ。例えば、気仙沼の酒造会社「男山本店」と企画した、海の中にお酒を貯蔵する、「海中貯蔵」の体験。お酒好きの参加者により楽しんでもらえるよう、地元では「利き酒コンテスト」も同時に実施した。さらに半年後には貯蔵したお酒を引き上げる「続き」のツアーも組むことで、「ワクワク感」の醸成を図った。
復興文脈を超えたコンテンツは何か
このように多くの工夫でツアー客を誘致してきたが、今年は「復興のお手伝い」「復興状況を聞く」といった「復興」ツアーの集客に、陰りが見え始めたという。復興文脈を超えた魅力的な訪問先としてアピールし直す必要がある。
例えば豊富な海産物をベースにした食、古くから脈々と受け継がれてきた芸能など、東北には観光客を呼び込める素材は多い。また、遠洋漁業に出航する漁師を見送る「出船送り」など、その土地ならではのイベントは、磨けば光るコンテンツになる。
しかし全国で比較すると、決め手に欠ける。「唯一無二の着地コンテンツがない分、いくつかの素材を組み合わせて複合技にしたり、見せ方を変えるなどの工夫が必要」とJTBコーポレートセールス執行役員の杉本功さんは言う。
一例に挙がったのは、「日本一星が綺麗」という岐阜県昼神温泉郷の事例。「真っ暗なゴンドラに30分乗ったあとに満天の星を見る、というツアーが好評です。同じく星が綺麗な気仙沼でも、工夫次第で宿泊付のツアーができるかもしれない」と、副事業部長の毛利直俊さんは評価する。東北に眠る「素材」を「体験」に繋げると、競争力は一気に増す。
地方で農作業を行う「農都交流」や、陶芸などの地域文化を体験する「生活文化体験」など、バラエティに富んだ先例は全国にある。東北の魅力が最大限に発揮される形を、今後も模索していくという。
文/齋藤麻紀子
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