湯治文化と温泉旅館の素敵な融合

　東北新幹線で新花巻駅を降り、車で西へ30分強。山間に佇む大沢温泉は、湯治文化を温泉旅館とうまく融合させた、印象深い一軒宿である。

　高級温泉旅館の雰囲気の山水閣、風情を残す菊水館、湯治スタイルで素泊まりが基本の自炊部と、それぞれ特徴のある３つの建物から構成される大沢温泉。最大の魅力は、これらの異なるテイストを提供しながらも、宿全体としての一体感が絶妙なバランスで保たれているところであろう。

　予約なしに単身ふらりと立ち寄り、古いながらも小ざっぱりとしている自炊部の部屋に籠り、風呂と部屋を往復しながらお気に入りの本を読みふける。こんな自炊部の使い方はある意味究極の贅沢といえる。基本が素泊まりなので炊事場もあるが、小奇麗な食事処のやはぎで美味しい料理に舌鼓を打てば、自炊部に逗留していることすら忘れてしまう。

　数ある風呂の中でやはり一番は、川辺にある露天風呂の大沢の湯だろう。対岸に建つ菊水館を眺めながらの大きな湯船での開放的な湯浴みは、東北という地の雄大さを実感するにはぴったりだ。

　温泉旅館で贅沢な時間を過ごしたい人にも、素泊まり三千円程からゆるりと湯治文化を嗜みたい人にもお勧めできる大沢温泉。幅広い客層を深い懐で受け止めることのできる、稀有な温泉である。

問い合わせ：0198-25-2021（山水閣）