他地域に学ぶvol.3 徳島県 神山町 「奇跡のNPO」が起こした転入者増【後編】

【誘致企業事例】Sansan(株)
サテライトオフィスが「働き方」の実験の場に

古民家をリノベーションした一室で仕事をする新入社員。

古民家をリノベーションした一室で仕事をする新入社員。

07年創業のITベンチャー、Sansan。クラウド名刺管理ツールを開発・販売する東京の企業だ。同社は10 年より神山町の古民家をサテライトオフィスとして活用している。

開始当初大南さんからは「本業を成立させることだけ考えて。もしだめだったら無理に残らないでほしい」とお願いされたという。他社に先駆けた開設だったため、住民や今後続く企業の視線が注がれていた。

それからSansanにとって築80年の古民家は、サテライトワークの実験の場になった。結果は予想を遥かに越え、開発者、法務担当者に続き、営業マンまでが成果を出すことができた。同社のミッションの中にある「働き方を革新する」の言葉をまさに体現する体験を積み上げた。

人事担当の角川素久さんはこう話す。「よく労務管理が大変そうと言われますが、実際はサボるどころが、東京に居る時よりも働いています。朝9時にオンラインで朝礼に出てから、途中食事や近所の温泉に行く時間を除き、12時まで働く。なのに健康になるんですよ。通勤がないので8時間しっかり眠れますし、休日は地域の人と木を切ったり、山に登ったり」。

取材に訪れた時はちょうど、新入社員研修が行われていた。2週間の日程には業務はもちろん、敷地内の牛小屋の掃除や、地域貢献活動、近所の小学校での授業実施も入っていた。授業のテーマは「イノベーション」だそうだ。小学生にどう伝えるのだろうか。

同社は今後も神山で新たな実験を続ける。これは都市に集中した多くの企業に刺激を与えていくだろう。

行政担当者からの声
徳島県 東京本部 副本部長 新居徹也さん

町の「人」「雰囲気」が一番の誘致材料

徳島県 東京本部 副本部長 新居徹也さん多くの自治体は、移住者獲得・企業誘致のために補助金を出し、住居も準備し、無料で見学会を開いて「誰でもいいからたくさん来てください」と呼び込みます。神山は逆です。来る人を選ぶ地域なんです。誰でもいいわけじゃないし、多ければいいわけじゃない。大南さんが外から人を呼び込む核となり、繋ぎ役としての役割も果たしています。なので、誘致目標数はあえて設定していないし、広く宣伝もしていません。

なぜそれでも人が移って来るのか。自然の美しさなら他にもっと素晴らしい地域があるし、住居や仕事、利便性など「条件」で来た人は出ていくのも早い。神山は、自由でクリエイティブな空気と、町のコミュニティが心地いいのだと思います。人に魅かれているから強いのでしょう。

人口減、過疎化が進む中、行政がすべての限界集落に資金をつぎ込むことはできません。地域の人が自ら動き出そうとしている所から、全力で支援していきたいです。例えばある集落ではそこでしか流通していないユニークな豆腐や油揚げなどの産品があり、それを中心街のショッピングモールで販売するプロジェクトを、県庁がサポートして行いました。結果大盛況で、翌日はわざわざ集落の商店にまで人が殺到した程でした。

大きく戦略を立てる今までの行政のやり方ではなく、小さなプロジェクトをできるものからどんどんやっていこうというのが今の私たちの方針です。こうした小さな盛り上がりがやがて空気をつくり、人を惹きつけることにつながると。

地方は「なにもない」のではなく「宝の山」です。今、全国的に起こっている価値転換、ロングライフデザイン、新しい生き方の再考。その末に、地方で生きることを選択する人が増えていくことは間違いないでしょう。今後の日本の仕組みになっていくと思います。

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