他地域に学ぶvol.4 山梨県北杜市【後編】

農村のリソース×企業のニーズで事業化

昨年開墾された、博報堂の「はくほうファーム」。20年以上放棄された耕作放棄地を、すすきの大株と格闘しながら耕し、大きな達成感。

昨年開墾された、博報堂の「はくほうファーム」。20年以上放棄された耕作放棄地を、すすきの大株と格闘しながら耕し、大きな達成感。

 3年間の開墾ボランティアの後、05年からは企業と連携し、社員が農地を耕す「企業ファーム」事業をスタートさせた。

 経営コンサルタント出身の曽根原さんは、農村のリソースと企業のニーズを掛け合わせ、6つの価値に分類(※図1)。個々の企業に合わせた提案を行った。

 例えば08年から連携している三菱地所グループは、「CSR」と「事業開発」がテーマ。限界集落の活性化に貢献すると共に、社員や顧客のコミュニティ醸成に活用してきた。同グループの契約農地は約1ヘクタール、年約15回の各種ツアーが組まれている。10年には東京・丸の内エリア勤務者に限定した酒米づくりツアーを開始し、11年に「純米酒丸の内」を出荷した。さらに同グループの三菱地所ホームとは林業でも連携。間伐体験ツアーから始まり、ツーバイフォーの建材を開発、同社の商材に標準採用されるまでになった。

 11年から提携した博報堂は、共に汗をかくという農作業のプロセスを部署・世代を越えたチームビルディングに活かしている。他にも、無農薬野菜を栽培するIT企業、地域在来品種の大豆を栽培し商品に活かす和菓子ブランドなど、目的はさまざまだ。企業だけでなく早稲田大学のビジネススクールも参加。目黒区の教育委員会と連携した体験学習では年1000人以上の子供たちが訪れる。

 曽根原さんは企業に対し、目的の明確化と同時に提案していることがある。それが3ステップの3ヵ年計画。①交流 ②ワークショップ③事業化・製品化だ。

 「例えば三菱地所ホームの場合、社員の林業体験に県の林業者・役人も加わって交流してもらった。回を重ねたところで、一緒に事業を考えるワークショップ。そして生まれた事業を県庁で調停式、という具合です」。こうした長期的な流れを提案時から描いているのだ。

事業づくりに必要な2つの専門を持つ人材

 東北が今まさに試行錯誤しているのは、地域経済を回すための事業化だ。それに必要な人材の要件を尋ねると、答えは明快だった。

農業研修に参加し、東京から移住して1年の若尾夫妻。「半農・半デザイナー」として、「純米酒丸の内」のパッケージデザインも手がけた。

農業研修に参加し、東京から移住して1年の若尾夫妻。「半農・半デザイナー」として、「純米酒丸の内」のパッケージデザインも手がけた。

 「農業のプロで、かつマネジメントのプロという人です。今の日本には、両方を満たす人はかなり少ない。農業の部分は、漁業でも林業でも同じです。地方にいる一次産業のプロたちが、マネジメントのノウハウを学べばいいんです」。

 曽根原さんは現在、全国各地で人材教育を行い、企業ファーム事業を移転している。三重県では県庁主導で曽根原さんを招き、企業誘致のコーディネーターを地域で育成している。また、東北でも3地域で「企業ファームみちのく」事業として人材・団体の育成中。すでに現在、2つの企業連携が契約済みだ。宮城県松島町のNPOは、東京のIT企業の農業部門と連携して農場を立ち上げ、地域の障害者と農業者20~30人を雇用する。もう1つは福島県会津地域の町おこし会社で、東京の中堅スーパーと連携し、放射能データを明確に表示した農作物ブランドを立ち上げる。

 曽根原さんが教えるのはマネジメント、つまり経営管理技術。主に①計画管理、②経営資源管理(人・物・金・情報)、③サプライチェーン管理の3つだ。

 「最近の傾向として、六次産業化=加工品づくりになってしまっていますが、違います。結局商売は、生産から販売までがつながればいい。つくって売りに行く(営業)ではなく、六次産業化によって生産から消費のサプライチェーンをつなぐと考えると簡単です。考え方を学べば誰でもできます。それより一次産業のプロになる方がずっと難しいですよ」。

 大事なのは、外から来た農業も漁業も知らないコンサルタントに考えてもらうのではなく、地域の産業のプロが自分で考えること、つまり地域における「コンサルの内包化」だという。

「企業ファーム」が提供する6つの価値。この中から各企業のニーズに合わせ、農村資源を使った具体的な取り組みを提案している。

「企業ファーム」が提供する6つの価値。この中から各企業のニーズに合わせ、農村資源を使った具体的な取り組みを提案している。

 「自然資源、空き家、未活用施設、産物、伝統文化……日本の田舎は宝の山です。僕は、眠っている資源を活用し全国で『10兆円規模の産業を興す』ことが可能だと信じている。これをやると農村を中心に100万人の雇用創出になります。18年前、僕が移住した白州の集落の人口は300人でした。今は750人、耕作放棄地もゼロになりました。なぜか。道に迷った時に、賑わっている明かりが見えたらそこへ集まるでしょう。火種を起こすことです。まだまだ日本には火種が足りない」。

 NPOのフェイスブックページには、各企業の社員が農作業をし、泥だらけで笑う写真が並んでいる。この笑顔が、地方資源をビジネスに変える意味と価値を何より雄弁に語っている。

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