東北のいまvol.17 海産物の宅配便・たみこの海パック / 南三陸町


養殖業は人手が要る。たとえば牡蠣は陸にあげた後、加工場で殻を抜き、ボイルし、乾燥させるまでの一連作業がある。養殖業を営む漁師の大半が家族の支えの上で成り立ち、規模が大きくなれば人を雇うこともある。震災前、阿部民子(たみこ)さんも漁師の妻の例にもれず夫・徳治(とくじ)さんを支えてきた。

震災後、海に近づくことができなくなった民子さんは、およそ1年間、戸倉地区の仮説住宅を見回る支援員として働いていた。でも、一方で自分は海に関わる仕事をしなければという思いがあった。海に出れなくてもできることはないか?……阿部民子(たみこ)さんは、南三陸町の海産物を選び通販することに行きついた。

商品名は「たみこの海パック」。夏の時期は生うにをメインに添え、お刺身サーモンや塩蔵ワカメ、たこわさび、たこのあたま、メカブなどの南三陸の海産物を取り扱う。震災前、およそ10数年間、自分の家で穫れた海産物をお歳暮として親戚・友人に送り続けてきた経験を活かそうと思った。

昨年(2012年)6月に内閣府の起業支援のプログラムに応募。勉強会に参加しながら、10月にプレハブの事務所を構え、事業を開始した。人も一人雇い、周りの協力を得ながら通販用のWEBサイトを立ち上げた。慣れないパソコンに向かい顧客に対応し、フェイスブックを使って日々の営みを発信する。「年齢のせいと逃げてはダメですが…」難しさを感じながらも日々勉強し、軌道に乗せようと努力している。少しずつだが固定客もついてきた。

今、戸倉地区の漁業は共同事業として運営され、徳治さんが水揚げたものも組合のものであり、個人のものではない。漁業者の生活を保証するため、一時的に皆がサラリーマンになっている。民子さんが詰める「たみこの海パック」も、個人の漁師から買ったものではなく、漁協や加工会社から買ったものだ。

徳治さんが個人事業主に戻るのは共同事業が終了する来年(2014年)の12月を予定しているが、加工場を新たに構えるお金も必要。個人で新たに再開したとしてどれくらい水揚げができるかが読めない分、不安もつのる。

養殖業を営む徳治さんに民子さんの助けは心強い。でも、民子さんに無理を強いることなく、むしろ「わたしは、パソコンができないので、仕事を自体を代わることはできないけど、手伝えることは精一杯やりたい」と新しい挑戦を応援する。

民子さんも「おとうさん(徳治さん)と一緒に仕事をしたい」と話す。南三陸の海産物の美味しさを全国の人にも知ってもらいたい、そして、近い将来に徳治さんの水揚げした牡蠣やホタテ、わかめ、昆布などの水産物もたみこの海パックに入れていけたら。徳治さんも「自分の汗水たらして作った製品がお客さんに喜んでもらえたらそれは励みになると思う」と話す。

二人は、今までは違う現場に挑戦し、夫婦としての新しい働き方を模索している。

写真・文=岐部淳一郎

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です