インタビュー先:加藤義孝さん
新日本有限責任監査法人 理事長
コンテンツよりコンセプト
地域を担う人材づくりを
Q.復興における課題をどう思われますか。
全体的に、いかにスピードをあげられるかが焦点だと思います。特に産業の立ち上がりが遅く、地域経済の活性化が必要です。
また各地域では、「地域通貨」「コミュニティスペース」など「何」をやるかに注目が集まっているようです。それら自体は素晴らしいのですが、根底にある「どんな未来をつくるか」という議論が欠けているかも知れません。これからはコンテンツよりも、コンセプト。たとえばブータンで言えば「国民総幸福量」というコンセプトが、人の心を惹きつけました。コンテンツ競争に陥いらず、各地域でのコンセプトづくりの視点が必要です。
Q.未来を見据えたまちづくりに、必要なことはなんでしょう。
人材育成です。私どもは「地域」「ビジネス」「次世代」の3軸で活動をしています。
まず必要なのは、地域のコンセプトをゼロからつくり、産官学の連携を図りながら具現化する人。日本では、実際に、ゼロからまちづくりをした人はいませんから、やはり育成が必要です。
次に地域を産業面からバックアップするビジネス人材です。東北の事業者には長年培われた技術ノウハウがありますが、経営ノウハウは十分とは言えません。「何をやりたいのか」「ゴールにどう到達するのか」という事業計画をつくり、ビジネスを継続させるためのマネジメントが必要です。例えば事業計画作成支援やパートナー紹介など、今後私どもも今まで以上に被災地の皆様と手を携えた支援を行うつもりです。
そして、最後に若者の育成でしょう。一昨年、被災地の中高生による「チャリティ・リレー・マラソン」を行いました。集めた寄付金の拠出先を、中高生自らが話し合って決めるプロジェクトでした。若者は未来の国からやってきた使者。自らが生きる未来の地域を、いま自らの手でつくるための、場づくりや指南が必要だと思っています。本プロジェクトは、今年も7月14日に東京で行う予定です。
Q.教育といっても、その内容や形態は様々です。ポイントを教えてください。
例えば、日本フィランソロピー協会主催「キリン絆プロジェクト・東北復興・農業トレーニングセンター」で、財務・会計や人材マネジメントの講義が行われています。ただ知識を教えるだけでは参加者の意識は変わりません。そこでは、各自の現状や課題とつなげ、いかに仲間と共に解決を図れるかを問う形で進めています。複雑な世の中で未来をつくるためには、「正解などない」ということでしょう。すべてを「自分ごと」として考える場や運営方法が求められます。
コンテンツ競争は、資金力や人手に頼るものです。このような一過性の支援ではなく、地域に根を下ろし、未来をつくるための投資が必要ではないでしょうか。
【新日本有限責任監査法人 加藤理事長プロフィール】
新日本有限責任監査法人理事長。震災直後から人材育成や自治体や企業、NPOなどへの経営支援プロジェクトを行う。福島県生まれ、東北大学卒。
文/齋藤麻紀子
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