石巻のコミュニティ形成事例 スポーツが人を育む人が町を育む

まちづくりは、人づくりから

NPO法人「石巻スポーツ振興サポートセンター」理事長・松村善行さん

NPO法人「石巻スポーツ振興サポートセンター」理事長・松村善行さん

「生活再建だけなく、石巻を震災以前よりも活気のある町にしたい」。そう話すのは、石巻中央商店街でスポーツ用品店を営む松村善行さん。震災直後、「避難所ネットワーク会議」を創設し、石巻市内の各避難所の情報交換や、被災者の二次避難移行に貢献。その後も、「旧観慶丸商店ビルディング 修復再生プロジェクト」や、「まちなかグリーンプロジェクト」などを推進する、地域コミュニティのキーパーソンだ。

 

「まちづくりは、人づくりから」―これは松村さんが大切にしている想いの一つ。お年寄りがいれば子供もいる中で、ルールを決めて共に生きていく地域コミュニティは、家族のようなもの。この意味をきちんと理解した人間こそが地域を支え、また、それを育てていくことが地域コミュニティの役目だと考えている。

スポーツを活用した人づくり

「子ども元気プロジェクト」の一環として、2013年3月に開設した「クライミング広場」

「子ども元気プロジェクト」の一環として、2013年3月に開設した「クライミング広場」

人づくりのために松村さんは、スポーツを活用した取り組みを行ってきた。2002年に「石巻スポーツ振興サポートセンター」を立ち上げたきっかけは、ある日見た中学校の体力テスト。自身の幼少期と比べ、子供たちの著しい運動能力の低下に危機感を覚えたという。「結果重視の競技思考を是とする近年のスポーツ教育の結果、運動をする子供と全くしない子供と、二極化していた」。運動が得意ではない子供たちのためのスポーツ環境づくりを決意し、同法人を設立した。

 

目指したのは、ヨーロッパなどでみられる総合型地域スポーツクラブ。地域住民全員が活動メンバーであり、地域コミュニティ全体で運営していくというもの。子供たちが運動を”楽しむ“ためのプログラムをベースとして実施しながらも、障害者が対象の海水浴イベントや、高齢者を対象としたウォーキングイベントなど、さまざまな年齢層やスポーツジャンルへと、その活動の幅を広げていった。

親子でスポーツを楽しむ「わんぱくスマイルプログラム」

親子でスポーツを楽しむ「わんぱくスマイルプログラム」

震災で避難所生活を送った際には、避難所のコミュニティに馴染めない若者や、支援を受けることに慣れ過ぎて、復興に向かう自発性を失った被災者を目にした。スポーツが果たす役割の重要性を改めて感じた松村さんは、スポーツ支援活動をいち早く再開。被災児童に運動用具を送ったり、仮設住宅でストレッチ体操をはじめとする運動プログラムを実施したりと、精力的に活動を行ってきた。

 

震災前後で一貫している松村さんの活動のポイントは、
(1)運動が得意ではない、できない状態にある人にこそスポーツの機会を提供する
(2)プログラムやイベントには競技思考を持ち込まない
(3)年齢やスポーツのジャンルなどで、支援活動を限定しないこと
の3点だ。前述のまちづくり活動の原動力、そしてその成果は、この「人づくり」=地域コミュニュティ形成を見据えた、松村さん流スポーツ活用方の賜物といっても過言ではないだろう。

遊びを通じてルールとコミュニケーションを学ぶ

「スポーツの語源のひとつは”遊び“なんです」と松村さん。新たにサッカー場や野球場を作ることはできなくとも、特に子供たちには、ちょっとした遊びの機会を用意してあげることこそが大事だと語る。遊びを楽しむためにもルールが必要で、それを守るためにはコミュニケーションが必要。この意味を、遊びを通して自身で学んでいくことが、スポーツの元来の姿なのかもしれない。そして、そういったコミュニティ形成に必要な力を地域で身につけて育ち、心身ともに活力をもった人間が、松村さんの意志を引き継ぎ、次のまちづくりの担い手となっていくのだろう。

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