現在、米国で自然災害研究者らによるワークショップに出席している。米国でも2005年のカトリーナ災害を直接の契機として、近年災害復興に関する議論の高まりがみられる。被害を受けた地域社会が元に回復したり、新しい状況に適応していく力を「レジリエンシー」と呼び、それを指数化する方法や、向上させるための具体的方法などが議論されているが、具体的な方策に乏しく、それほど実りある議論に成熟しているようには思えないというのが率直な印象である。
それに比べると、東日本大震災で行われている幾多の復興対策がどれだけ先進的なものかと改めて思う。とりわけ、被災地に復興のリーダーを育て、それを支える取り組みや、被災企業の復興に対して民間資金を呼び込むしくみなど、優れた取り組みは山ほどあるように思う。
筆者が都度その重要性を主張している被災者の雇用創出プログラムも、東日本大震災の最大のイノベーションの一つだと思う。
米国連邦危機管理庁(FEMA)は古くから、災害対応業務に被災者を雇用するプログラムを持っていた。しかし、今回の東日本大震災における公的な雇用創出規模はそれを遙かに凌ぐ。本稿を手にとっておられる被災地の方々も、緊急雇用創出事業のお世話になっている方は少なくないだろう。緊急雇用は、もはや雇用対策を超えて、被災地の膨大な復興業務を支える重要な制度的インフラになっている。これは世界的にも例のない試みであり、世界的な注目を集めるだろう
他方で、読者の方々の関心はおそらく、緊急雇用が終わったその先の復興をどうするかという問題だろう。筆者は二つの方向性があると思っている。
一つは、被災地の経済復興が本格化するまで、引き続き公的な雇用創出の必要性を訴えることである。もう一つの方向性は、一部の事業について被災地だけではなく全国的な制度として普及を図るということである。例えば、仮設住宅支援員を雇用する事業は、弱体化した地域コミュニティを補完する事業として全国的なニーズもあるだろう。被災地のある地域で聞いた話だが、仮設住宅一世帯あたり月7000円もあれば支援員を雇用することは可能だという。公的資金が無かったとしても、それはあながち無理な話ではない。
全国でそうした取り組みが進めば、それは次の巨大地震に対しても威力を発揮するはずだ。レジリエントな社会を創るというのに、これほど具体的でわかりやすい取り組みはないと思う。
【プロフィール】永松伸吾(ながまつしんご)
関西大学社会安全学部准教授。日本災害復興学会理事・企画委員長。一般社団法人CFW-Japan代表理事。主著に『減災政策論入門』(弘文堂)、『キャッシュ・フォー・ワーク』(岩波ブックレット)など。
より多くの賛同者を期待するのであれば日本語で表現されたし
さもないと日本語の語彙が衰退するのみならず、世代間情報格差が益々拡がるばかり
一般には回復力・復元力で構わないとは思うが、この文脈で語るのであれば、「しなやかな社会」でも良いのでは
建築家の隈研吾氏は、逆説的にそれを「負ける建築」と表現するが、これも意訳すればResilient となる。