福島県双葉郡発、復興を担う新たな教育とは「双葉郡教育復興ビジョンに 託す子供たちの未来」【後編】

片足はふるさと、もう一方の足は世界へ

――双葉郡、そして東北の未来のために、教育はどんな役割を果たせるでしょうか。

 復興には非常に長い時間がかかります。次世代に託すしかありません。主体性をもって、かつ仲間と力を合わせられる人材を生み出さないとなりません。そのためにはやはり教育です。

 ビジョンでも「創造力と想像力、この2つの力で子供たちの夢と人間力を育て、地域の復興に主体的・協働的に関わる人材を育成する」という理念を掲げました。いまの日本には、「私」という個人と「私たち」という社会の相互作用がありません。「私たち」に思いを馳せるには、創造力(クリエイティブ)と想像力(イマジネーション)が必要なんです。主体的に何かを創造すればクリエイティブではありますが、「みんなはどう思うだろう? 世界ではどうだろう?」と想像するイマジネーションも豊かでないといけない。

 双葉郡の子供には、片方の軸足をふるさとに置きつつも、もう一方の足で世界に踏み出してほしい。そのために学校側も「片足はふるさとに、もう片足は世界へ」という視点で取り組みたい。地域に育てられたという思いがあれば、世界のどこに行っても、ふるさとを忘れることはないでしょう。そして、直接間接に将来の復興に力を発揮してくれるものと期待しています。

根本匠復興相へビジョンを手渡しする武内教育長

一貫校、早ければ15年度の開校へ

 文科省へビジョンを提出し終えた今、中高一貫校の設置場所についてなど、議論はより具体的なステージに移っている。武内さんは「子供たちの現状を思えば1年でも早く開校したい」と、早ければ2015年度の開校を目指して、9月にも実行部隊となる新たな協議会を設置する意向だ。多様な主体との連携を軸とするビジョンの実現に向け、地域内外のさまざまな人・組織の参加が求められている。

双葉地区から真のグローバル人材を

文部科学省生涯学習政策局 参事官(連携推進・地域政策担当)付 専門職 南郷市兵さん

 双葉地区教育長会から、郡内の教育環境整備への支援を求める要望書をいただいたのが2012年9月。文部科学省でもぜひ後押ししようと、協議会に2名の審議官が加わるなどして、ビジョン策定のプロセスに積極的に関与してきました。私も事務方として、すべての会合に参加してきました。

 これからビジョン実現に向けて求められるのは、地元のマンパワーの底上げです。ビジョンに掲げたさまざまな連携を進める上でも、復興教育を牽引する主体として、さらに双葉郡での取り組みを東北全体に広げる役目を担う人材が求められます。全体をコーディネートし、効果的な協働を生み出す組織的な枠組みも必要かもしれません。

 協議会での議論や地域の方々との対話を通して確信したのは、双葉郡の子供たちこそ「グローバル人材」の素地を持っていること。私はここに大きな希望を感じています。非常に辛い体験を経た子供たちには、たくさんの伝えたい思い、語るべき内容があります。そして、復興に向けて行動したいという並々ならぬ意欲があります。先日も文科省で進めている「OECD東北スクール」という復興教育プロジェクトの関係で、双葉郡の中高生数名を連れてパリを訪れましたが、ものすごく堂々とプレゼンテーションをするし、原発についてフランス人の 生徒と侃々諤々の議論をしたりもしていました。

 ビジョンでも、地域の復興だけでなく世界に貢献できる人材育成をうたっていますが、子供たちが震災の体験を踏まえて思考し、学びに昇華・発展させ、その経験を世界に発信できるよう、あらゆる知恵とリソースを総動員してサポートしたい。そして、双葉郡から全国のモデルとなる教育復興を進めたいと考えています。きっと双葉郡の中高生の姿が地域の大人も動かし、力強い双葉郡復興のうねりが起こってくると思います。

「地元ファースト」で応援し続けたい

公益財団法人 東日本大震災復興支援財団 専務理事 荒井優さん

 私は教育の専門家ではありませんが、復興を応援する民間の立場から協議会に参加させてもらっていました。議論に加わり始めてまず思ったのは、子供たちは何を望んでいるのだろう?という点です。

 そこで今年3月下旬に協議会主催で「福島双葉郡子ども会議」を開きました。郡内の小中校生25名と、その保護者や引率の先生方、行政関係者など、総勢80名あまりが集まり意見交換を行いました。子供たちの口から出たのは、自分のことだけでなく、町のため地域のために何かしたいという思い。熱心に耳を傾けていた教育長さんたちは、とても感銘を受けていた様子でした。

 ふり返ってみると、この子ども会議を1つの契機に、8人の教育長さんたちがまとまり始めたように思います。子供たちの声を聞くなかで、本当に子供たちのためになる教育をつくろう、という思いを改めて共有できたのかもしれません。ビジョンを取りまとめることができたのは、現場でがんばっている教育長さんたちがあきらめず対話を重ねたからでしょう。前に進む力を生むのは、けっきょくは人の熱意なのだと実感しました。

 ビジョンの実現に向けて、何より優先されるべきは地元の方々の思いです。徹底的な「地元ファースト」の考え方で、これからも双葉郡の教育復興を応援していきたいですね。

文・小島和子

→→【前編】へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です