他地域に学ぶvol.7 高知県 四万十市【前編】

「地デザイナー」が彩る田舎のアタリマエが持つ価値。

迫田さんは「地(ジ)デジ」(地・デザイン・ジャパン)と称し、デザイナー育成のために全国でワークショップを展開する。

迫田さんは「地(ジ)デジ」(地・デザイン・ジャパン)と称し、デザイナー育成のために全国でワークショップを展開する。

 深い緑の山間から透んだ水を湛え悠々と流れる、高知県の四万十川。その中流域に、道の駅「四万十・とおわ」があった。高知市内から車で2時間半。山深い、人口3000人弱の地域にも関わらず、年商は2億円を超えるという大人気の道の駅だ。

 それも頷けてしまうのは、この道の駅の持つ「デザイン力」だ。川沿いに建てられた木造平屋の味のある駅舎も、売店に並ぶ洗練されたパッケージの特産品も、巷にある道の駅とは趣が違う。聞けば、駅舎も商品も、あるデザイナーが携わっているという。それが「地デザイナー」の迫田司さんだ。彼の言う、地デザインとか一体何なのか。話を聞きに伺った。

デザインした牛乳が町おこしに発展

四万十川中流域にある、大盛況の道の駅「四万十・とおわ」。迫田さんがデザインを手がける米や茶、アイスなども多く並ぶ。

四万十川中流域にある、大盛況の道の駅「四万十・とおわ」。迫田さんがデザインを手がける米や茶、アイスなども多く並ぶ。

 カヌー好きが高じ、迫田さんが都会から四万十市の西土佐地域に移住してきたのは20年前。自分の田畑を耕しながら、近所から頼まれた農産物のパッケージなどを制作するうちに、気付けば特産品やポスターなどを手がける、地域のデザイナーになっていた。

 04年には四万十川流域の水でつくられた「山間米」で、米袋としては初のグッドデザイン賞を受賞。また、隣町の地域内だけで消費されていた吉本牛乳を「地乳(ぢちち)」とリブランディングしたところ売上が増加。その後地元の人々が「地乳パン」「地乳プリン」などの商品を次々に展開し、行政まで「地乳のまち」として町おこしを始めたという事例もある。その他、道の駅の監修や、「すみずみツーリズム」題したと農家民泊の紹介マップ作り、地域の小学生が農業をした産物を地元のスーパーで売るプロジェクト「メイドインちっちゃいな」など、迫田さんのアイデアと遊び心が地域を盛り上げている。

「1町1デ」。全国で地デザイナーを育成

地デザイナーの迫田司さん。

地デザイナーの迫田司さん。

 迫田さんは「デザイナーは大工や医者と同じく、地域に必要な役割ではないか」と考えている。地域に暮らし、住民が見過ごしている日常の「アタリマエ」の中に本物の豊かさを見出し、それを編集し、発信する人。これが迫田さんの言う「地デザイナー」だ。

 地元の価値を見つけるために重要なのは、外から来た「よそ者」の視点。そしてそれを形にする鍵は、地域の中にある。地域に住み、住民と一緒に汗をかき、酒を飲み、生活する中で見えてくるのだという。地デザイナーという発想は、地元に帰りたいけれど仕事がないという多くのクリエイターに道を開くものでもある。

 現在迫田さんは「1町1デ(デザイナー)」を合言葉に、日本全国で地デザイナーを育て、ネットワークする活動を行っている。彼の事務所に来る多くのインターン生を育成すると共に、一昨年からは全国各地を訪れてワークショップを開催。その数はのべ50回を越えた。

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