「ふくしま復興塾」1年目の総決算 若き復興リーダー育成の成果を問う【前編】

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上:開校直後に行われた浪江町でのフィールドワーク。下:チェルノブイリ視察で訪れた原子炉を覆う石棺。

 福島の復興を担う次世代リーダーを育成する「ふくしま復興塾」。12月14日、第一期生のビジネスプラン最終発表会が郡山市で行われた。
 2013年5月の開講以来、8カ月間にわたって学んだ成果として、塾生たちが福島の復興につながるプロジェクトを発表。「ふくしま復興塾グランプリ」は「夜明け市場を基点とした食の循環モデルづくり」プロジェクトを発表した松本丈さんに贈られた。

チェルノブイリの現状から福島を考える

 今回一期生として学んだのは主に20~30歳代の25名。福島在住・出身者ばかりでなく、復興に思いを持つ県外出身者も含め、一般企業に勤務する人や復興関連の事業をすでに立ち上げている人、行政職員や大学生など、さまざまな背景を持つメンバーが集まった。

 プログラムの基本は隔週土曜日に行われた講義やディスカッションだが、もちろん座学ばかりではない。開講間もない6月には、さっそく福島の現状リサーチとして浪江町でフィールドワークを行い、8月には6日間の行程でウクライナに視察旅行に出かけた。

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上:現地ではスラブチチ市長ほか現地リーダーを訪ねた。下:食、コミュニティ、子供、産業のテーマ毎に分かれて講義やグループディスカッションを行った。

 浪江町のフィールドワークでは、復興塾メンターでもある福島県職員と浪江町職員の案内で現地に向かい、中通りや会津からは見えない原発の爪痕を目の当たりにした。奇跡的に全員が助かったという町立請戸小学校の時計の針は、津波が来た時刻で止まったままだ。町の運動場には今も大量の除染土が山積みされ、除染の難しさを体感したという。

 ウクライナ訪問の目的は、グローバルかつ歴史的な視点から福島の現状をとらえ直し、復興に取り組む意義を改めて認識することだ。廃墟となったチェルノブイリ原発周辺の村や、避難先となったスラブチチ市と原発から100キロほど離れたコロステン市を訪ね、市長・副市長やチェルノブイリ観光プランナーなど、復興を牽引してきたリーダー層に話を聞いた。事故から27年を経てもなお、ほとんど廃炉が進んでいない現状を現場作業員に直接聞き、福島復興には長期にわたる覚悟が必要なことを改めて突きつけられた。チェルノブイリを「観光地」として、事故の現実を伝える計画を率いたスラブチチ市長のリーダーシップに刺激を受けた塾生も多い。

細やかな個別指導と塾生同士の学び合い

 事業立案や事業計画、予算の立て方など、ビジネスの第一線で活躍する講師陣から徹底的に指導を受けられるのも復興塾の特徴だ。事務局を担った佐藤達則さんは、「プロジェクト学習の過程で講師やメンターに個別指導を受け、1回ごとにブラッシュアップできたことが成長につながった」と評価する。

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上:グランプリに輝いたNPO法人Tatakiage Japanの松本丈さん。下:最終発表会には、福島県内外から100名を
超える人が参加した。

 塾生の発表で共通して聞かれた成果の1つに視野の広がりがあげられる。「ふくしま復興塾グランプリ」を受賞した松本丈さんは、入塾時にはすでに食ビジネスを立ち上げていたが、「別々に考えていた複数の事業を連携させるべきだと腹に落ちた。それには地元の生産者を巻き込もう」と、新たなプレイヤーの存在に気づいたという。

 復興塾に協力しているキリンビール(株)提供の「KIRIN賞」を受賞した「高齢者の健康づくりと地域コミュニティの再生」プロジェクトチームの小抜勝洋さんは、「医療機関に勤務する私は、専門的な領域だけに視野が狭くなりがち。立場の違う塾生との出会いで広い視点を持てたおかげで、病院と地域の連携を盛り込んだ提案ができた」と語る。チームメンバーは地元郡山の地域包括支援センターで避難者のケアにもあたる増子理子さんと、ふくしま観光復興支援センターで観光という視点で復興に携わる羽根田啓子さん。3人が互いの強みを出し合ってこそ生まれたアイデアだ。

 塾生として「からだあそび塾」プロジェクトをつくり、事務局として運営にも携わってきた菅家元志さんも、仲間の大切さに気づいた一人だ。「自分より一歩先に復興の文脈で起業している仲間と出会い、同じ土俵でしのぎをけずり、迷ったときに相談できる関係がつくれたことが何よりの収穫です」。復旧・復興に関する事業は、復旧期はソーシャルな側面が強くなりがちだが、復興期にはより事業性が求められる。「状況の変化によって適切なバランスも変わってくるので、リアルタイムに相談できる仲間がいることが非常に重要です」。

 復興塾での学びの基本は、まず復興すべき福島の現実を直視すること、より大きな視点で俯瞰するためにチェルノブイリという歴史に学ぶことにあった。そして何より大事なことは、ビジネスの現場で活躍しつつ、福島の復興に思いをかける講師陣やメンター、そして自分たちの力で復興を成し遂げたいと本気で集った塾生という多様な人材が、密度の濃いコミュニケーションを取れる場をつくったことだ。

 ここから復興を担う真のリーダーが何人生まれるだろうか。復興塾の本当の成果は、塾生たちの今後の活躍にかかっている。

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