「ふくしま復興塾」1年目の総決算 若き復興リーダー育成の成果を問う【後編】

INTERVIEW「塾の運営自体が形を変えて成長していった」
ふくしま復興塾事務局 丹波史紀 事務局長

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 ふくしま復興塾は、若い人を育て上げようと思ってつくったプログラムですが、今日の最終発表を聞いて、私たちが「教えた」というより、塾生たちが「育ってくれた」のだと実感しました。

 塾生25人の中には、すでに起業家として活動している人もいれば大学生もいて、運営上は難しい点もありました。また、最初は「子ども」「産業」「食」「コミュニティ」という4つのゼミに分けたのですが、塾生たちの希望も聞きながらプログラムを調整してきました。復興塾自体が、生きもののように形を変えながら成長してきたのだと思います。

 今回のプログラムは、主に起業家志向の若者を念頭に、事業立案に重きを置いた構成でしたが、行政機関などの公共領域で活躍できる人材育成にも力を入れてもいいかのかもしれません。次年度プログラムについては、今まさに検討している最中です。

 今日はこれからのトライ&エラーの出発点。どのプロジェクトも、思いはあふれていても、まだまだ改善の余地があります。数年経ったとき、「あのときの発表がこういう形で実を結んだね」と言われるよう、卒業生にはいいロールモデルになってもらいたい。そうなってこそ、復興塾を開いた甲斐があります。

塾生たちが発表したプロジェクト

テーマ:食・人材育成・起業家支援/「夜明け市場」を基点とした食の循環モデルづくりプロジェクト【グランプリ獲得】

背景・課題

 飲食店事業者は震災で店舗を失い、仕事を再開できないでいた。いわき市で2011年11月、駅前の寂れたスナック街に復興飲食店街「夜明け市場」をオープンし、事業が再開された一方、風評被害の影響で、福島の食は従来と同じ方法では売れない状況が続いている。
「夜明け市場」を基点に、食の生産者、さまざまな分野の起業家、そして消費者の連携を生み出し、福島の食の循環モデルを構築する。

事業概要

 「夜明け市場」は2店舗からスタートし、今は11店舗が入り、軌道に乗りつつある。飲食業以外を含め幅広い分野で活躍する人材を増やすため、2013年春には起業家支援を目的としたNPO法人「TATAKIAGE Japan」も設立。復興塾で学ぶうちに、農家など地元生産者をプレイヤーに加えることで、食の循環を軸として、両者をうまく連携させるモデルができると考えた。
現在進行中の新プロジェクトは、「Hyaccoi(ひゃっこい)」と名づけた100%いわき産のスムージーの開発。
 安全性が確認された食材を最高のレシピで加工し、付加価値を付けて販売。農家、フランス料理店、製氷会社など、いわき市の企業・団体によるコラボレーションで取り組んでいる。
 一連の事業で実現したいことは、福島の食を「応援しよう」から「「食べたい!」に変えること、そして若者が出ていってしまう福島をチャンスあふれるUターン・Iターンの聖地に変えることだ。

テーマ:雇用/会津木綿を使用した手仕事プロジェクト

背景・課題

 原発30キロ圏内の市町村住民は避難生活を余儀なくされ、先の見えない不安を抱えている。プロジェクト発案者の故郷である会津にも大熊町や楢葉町からの避難者が大勢いたが、「何もすることがなくて辛い」「社会とのつながりが欲しい」とこぼし、生き甲斐を失っている方も多い。

事業概要

 避難生活をしている人に、伝統的な会津木綿を使った商品を手作りする内職の機会を提供し、生きがいと仕事づくりを通じて生活を応援する。主な製品はさまざまな色合いのストールで、ミシンが不得手な人も参加できるよう、ストールのフリンジをつくるという手仕事からスタートした。
 発案者の谷津拓朗が2011年の秋から行っていたIIE(イー)ブランド事業を復興塾のプロジェクトとしてブラッシュアップ。復旧期から復興期への移行に伴い、ブランドビジョンを「幸せをわかちあうこと」と定める。2013年3月以降の販売実績は、ストール約1200枚。現在15名の作り手を今後増やすとともに、会津木綿以外にも隠れた地域資源や文化を掘り起こし、商品化につなげたい。

テーマ:福祉・健康/健康づくりワンデイシェフプロジェクト~目指せ!健康長寿!~

背景・課題

 震災後、県内の高齢者は地域とのつながりが分断されてしまった。結果外出の機会が減って、筋力低下や閉じこもり傾向が顕著になっている。要支援・要介護者も増加している。高齢者の健康づくりと地域コミュニティの再生が課題となっている。
 将来的に要介護状態となる恐れのある高齢者を対象とした「健康づくりワンデイシェフ」プロジェクトを病院に導入し、メタボ、ロコモ(運動器症候群)、認知症という負のトライアングルを断ち切り、健康寿命を延ばす。

事業概要

 ワンデイシェフとは、日替わりシェフによるコミュニティーレストラン。料理のメニューを考え、実際にメンバーが調理することで認知症を予防。同時に管理栄養士の指導を仰ぎながら、健康にいい食事を提供することでメタボを防ぎ、ロコモ対策として健康チェックや体操なども取り入れる。
 週1回のプログラムを半年間で1期として、2014年度は40名にアプローチ予定。徐々に実施場所を増やして、向こう3年間で250名の高齢者にプログラムを提供を目指す。高齢者が元気に人とつながることで地域コミュニティが活性化し、いわゆる「無縁社会」の解消につながることも期待できる。

テーマ:教育/からだあそび塾

背景・課題

 福島の子どもたちは、放射線への不安などから外で身体を動かして遊ぶ機会が奪われている。その結果、肥満の増加や運動能力・体力の低下という問題が顕在化してきた。外遊びに対する考え方が親同士で違うため室内で過ごす時間が増え、保護者や学校の先生も、いい解決策がわからない状況にある。

事業概要

 学習塾を対象として、運動不足の解消と同時に英語の勉強の要素を取り入れた教育コンテンツ「英語 de “からだあそび塾”」の提供。市販の「Kinect(キネクト)」という体感型ゲーム機器を補助教材として、ネイティブの先生、運営マニュアルなど、プログラム運営に必要な要素をすべて用意するため、学習塾は場所があれば運動しながら英語を学ぶプログラムを提供できる。あそび塾の様子を録画して持ち帰ってもらえば、自宅でもビデオを見ながらからだあそびを楽しめる。まずは福島県内の学習塾から始め、その後、保育園や幼稚園、小学校にも導入をはかる。将来的には東北全体、そして日本全国に展開し、子どもたちの運動習慣を促す社会インフラとなることを目指す。

テーマ:自己啓発・研修/福島県・東京都若手職員共同自主勉強会

背景・課題

 震災後間もないころ、避難所の倉庫には、全国から寄せられた菓子パンやおにぎりが食べられないまま山積みされていた。それにもかかわらず、人々は寒さとひもじさにあえいでいた。「とにかく食べ物を」から「温かい食べ物を」というニーズの変化に行政の対応が追いつけなかったためだ。行政には、住民のニーズや課題を見据える「想像力」と、それを政策へ昇華させる「創造力」が求められている。

事業概要

 福島県と東京都の若手職員を対象とした2年間のプログラムを開発・運営する。1年目は、テーマ設定、事前学習、フィールドワーク、ふり返りというサイクルで学び、2年目は課題設定、政策立案、チェック、提案というサイクルで、より実践的なカリキュラムとする。

テーマ:食・農業支援/福島に“つながる”弁当プロジェクト

背景・課題

 風評被害の影響で福島の農業は依然として厳しい状況にあり、農家の生活が安定しない。一方で、県外の企業のなかには、福島復興にかかわりたくても、原発など複雑な状況の中、社として課題を絞りにくいという声もある。
 福島の農業と県外の人々をつなぐためのお弁当を開発・販売する。第一弾として開発したのは、福島特産のブランド豚「麓山高原豚」のあまから焼き弁当。お米から副菜まで、すべての食材は福島県産だ。

事業概要

 2014年度から本格的な販売を開始し、初年度の売上目標は2万4000個。1食1000円、福島産の食材調達費が占める割合を40%として、地元生産者に960万円分貢献できる。また、1個あたり50円が復興支援活動に寄付される仕組みで、売上が目標に達すれば、120万円を活動費に充当できる。
 販路開拓の候補は各企業のCSR関連部署。CSRの一環として、「福島に“つながる”弁当」を通して福島とつながっていただきたい。こうしたつながりを最初の足がかりとして、復興に向けたコミュニティの輪を広げたい。

その他プロジェクト

●福島で「繋がる」仲間づくりツアープロジェクト
●ふくしまイノベーターズカレッジ(仮)プロジェクト
●「ふくしま被災地ツアー」大学教育プログラム化プロジェクト
●じいちゃんばあちゃんコミュニティ(高齢者が主体的に関わる地域の拠点づくり)

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