他地域に学ぶvol.10 京都府京都市【後編】

新しいアートと、古いビルへの愛着。「つくるビル」が地域を融合する

(右)各部屋、天井以外は入居者が好きにしてよく、ビル中が展覧会のよう。階段もアート作品に。(左)「つくるビル」の仕掛け人、石川秀和さん。「これからは資本主義から文化主義にシフトするでしょう」と話す。

(右)各部屋、天井以外は入居者が好きにしてよく、ビル中が展覧会のよう。階段もアート作品に。(左)「つくるビル」の仕掛け人、石川秀和さん。「これからは資本主義から文化主義にシフトするでしょう」と話す。

次に訪ねたのは、築50年の老朽ビルを、若手アーティストのアトリエビルに生まれ変わらせた石川秀和さん。51人のアーティストが入居する、その名も「つくるビル」。制作活動や展覧会、トークイベントなどを通じ、モノ・コト・出会いなどさまざまな「つくる」を生み出しながら、12月1日で1周年を迎えた。

「京都は芸術大学が多く、1万人以上が在学しています。しかし彼らが卒業後に制作や発表ができる場所が少ない。このビルの入居者は、クリエイターと呼ばれる職種の中でも特に制作・活動の場が少ない、アナログ的なものづくりをしている人たちに開放しています」。

施設もシステムも細部まで作り込まず、入居者と共に作れるように余白を多く残しているという。

古きものから生まれる 交流とクリエイション

個室に加え、複数のアーティストが制作を行うシェアアトリエも。ビル全体で定員は51名だが、オープン以来ずっと満室だという。

個室に加え、複数のアーティストが制作を行うシェアアトリエも。ビル全体で定員は51名だが、オープン以来ずっと満室だという。

元々はマンションの企画をしていた石川さんだが「熱意なく作った物件でもとにかく売れる。消費者を見ないものづくりの連続だった」という自身の働き方、さらに住宅購入者の「ローンを返すため」という働き方や生き方にも疑問を持ち、古い物件を企画とデザインで活かすリノベーションの道に入ったという。

思い入れを持ち、多くの人の声も取り入れて再生させたビル。その場所に古くからあるものを活用しただけに、関心を持ってくれる地域の人は多く、特に上の年代と若者をつなげる文化やものづくりの交流が生まれている。ビルを訪れた近所に住む工芸品の職人さんが工房を見せてくれたり、お礼に若者たちがカフェやバルに案内して喜ばれたり、近所の風呂敷問屋さんから店舗プロデュースの依頼があったり、老舗ホテルから土産物コーナーの商品の目利きを頼まれたり。

リノベーション前の「つくるビル」。築50年、老朽化が進み解体の話もあったが、「モノとコト」「人と人」が集う場へと再生された。

リノベーション前の「つくるビル」。築50年、老朽化が進み解体の話もあったが、「モノとコト」「人と人」が集う場へと再生された。

閉じこもりがちな「ものづくりの現場」を外へ開放することで、クリエイターと社会、若者と年配者、移住者と地元住民とを柔らかくつないでいくビル。多くの人の想いの分だけ、大きな可能性を秘めている。

取材を終えて 若い移住者はきっと東北にも増やせる

インタビュー中、期せずしてお二人から、働き方・生き方に関する話が出た。「家賃を払うために」「ローンを返すために」という働き方からの脱却だ。

先日行われた1周年記念イベントでは、各部屋を公開した展覧会やワークショップ、さまざまな作り手が出店。2日間で300人あまりの来場者があった。

先日行われた1周年記念イベントでは、各部屋を公開した展覧会やワークショップ、さまざまな作り手が出店。2日間で300人あまりの来場者があった。

移住者獲得というとインフラや施設の充実と職の斡旋が必須という発想になりがちだが、京都で大事にされていたのは「場」であり「つながり」だった。東北のどこかの市や町で若い世代が盛り上がり、それをしっかり発信することで、都市で力を発揮できていない若者が「そこで私も挑戦してみたい」と思えたり、都市型の生活に疑問を持っている人が「そんな暮らしならしてみたい」と思えるようなイメージを、現実味をもって見せることができれば。復興支援でも生活条件でもなく、「働き方・生き方」からアプローチした、新しくて夢のある東北移住を提案できれば。きっと東北にも移住者は増やせるのではないだろうか。

そのための第一歩は、都市から東北へUターン・Iターンした若者が地域や県内でつながり、とにかく仲良くなって盛り上がること、かもしれない。近い将来、「○○移住計画」「○○つくるビル」が東北各地から生まれてきたらどんなに素敵だろうか。

←前編へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です