目標は地域を変える人材の育成
現場を見て方向転換も
昨年7月の開校からさまざまな問題も浮上してきたが、そのつど皆で話し合い解決していった。60代の講師から学生ボランティアまで老若男女が席を並べる職員室には、互いを尊重しあう調和の空気が流れている。現場を見ながら必要に応じ柔軟に対応。その一つが個別指導の導入だった。授業についていけない生徒が出てきたため、当初は長期的に関われる人を求めていたボランティアを、1週間交代の短期募集に変え敷居を下げることで増員し、受験を控えた中学3年生の個別指導を開始した。成果は徐々に現れ、模試で前回の2倍の点数を取る生徒や順位を大幅に上げる生徒も。成績以外にも、学習態度が改善した生徒や、自分の悩みを打ち明け精神的に落ち着いていく生徒も現れた。ボランティアもやりがいを感じ、リピーターになってくれる人も出るようになった。
カタリバスタッフの松本真理子さんは語る。「たとえ短期でも、色々な人に来てほしいです。モチベーションは、教えてくれる人への憧れでも、意地でもいい。多くのボランティアが日常的に子どもたちに関わることで、地元に居たら出会わなかったような経験を持った人と話すことができる。その刺激が生き方の選択肢を増やすことや未来への希望につながると思います」。
受験生対象に第二校目開校
女川町と同様、震災・津波・火災で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町。住居倒壊率は64・6%と被災地で3番目に高い。
昨年12月、この地に念願のコラボ・スクール2校目「大槌臨学舎」が開校した。中学3年生約80名の生徒に対し、元塾講師2名、ボランティア5名、スタッフ数名という体勢でスタート。講師が教える教科は英・数で、他は新しく導入したパソコンで勉強できる教材と個別指導で学習する。
受験目前である中学3年生の学習支援ということで取った施策がある。まず生徒の学力に合わせクラスを基礎・応用・発展で分けた点。クラス分けは親に直近の試験の点数を提出してもらい、学校の教師と相談して決定した。次にモチベーションづくりとして、最初に生徒全員に志望理由書を書いてもらった。志望校名を書いた生徒や、「看護士になりたい」など将来の夢を書いた生徒も。目標を明確にし、それを表明をすることで学習意欲を喚起したかった。さらに来賓を招いての開校式を行い、多くの人の好意と応援の気持ちによって作られた学校だということを知ってもらった。結果生徒は熱心に勉強に取り組んでいるという。
スタッフの小柳徹朗さんは「今後対象を小学生から高校生までに広げたい。まずは目標3年間、その後は地元の方々と協議しながら、運営を地元に引き継ぐのか、継続するのか、よい形を探っていきたい」と話す。
カタリバが目指すのは、子供たちの高校・大学への合格ではないという。多くを失った地域に新しい産業を生み出せる子どもたちを育てること、10年後の日本にイノベーションを起こせる人材を被災地から輩出すること。長く、険しい道のりにカタリバは挑む。地域の人々を手を結びながら。