宮城県内に89名の新起業家が誕生
岩手、宮城、福島の各県では、2013年度から、地域に根ざした新たな起業家育成が進んでいる。被災地域における起業家支援の先行事業としては、12年度に内閣府が行った「復興支援型地域社会雇用創造事業」がある。全国のNPOなど12団体を通して起業支援・人材育成プログラムを行い、608名の起業家を育成。2078名に社会的企業でのインターンシップの機会を提供した。ここで生まれた事業が発展し、地域に継続的な雇用を生み出せるよう、13年度からは岩手、宮城、福島の各県が内閣府の事業を引き継ぐ形で、地域に根ざした起業家育成を独自に展開している。例えば宮城県では今年度、新たに計89名(14年2月現在)の起業家が誕生した。県事業のうち、石巻・気仙沼周辺地域を担当しているのがNPO法人石巻復興支援ネットワークだ。89名のうち、石巻・気仙沼周辺では39名が起業。年齢層は20~60歳代と幅広く、男女比はおよそ3対2。起業分野は多岐にわたり、地ビールやワカメ餃子の販売などの飲食店や、三陸野菜や海産物の通販、そのほかにも、自然体験ツアーやアロマテラピーなどさまざまだ。
同ネットワークは12年度の内閣府の事業にも関わったが、事務局の村上貴紀さんによれば、今年度の特徴は地元出身者の起業家の割合が増えたことだ。「そもそも昨年度は、この事業の情報が地域に浸透していなかった。前年の内閣府事業で生まれた起業家がモデルとなり、『起業』が選択肢の一つとして目に見える形になってきた」。
地域をつなぐコーディネーター
石巻復興支援ネットワークの主催で、1月には「起業家対象基礎講座」が開かれた。参加したのは、12年度の内閣府事業、13年度の県事業の両者から誕生した起業家のうち、石巻・気仙沼周辺地域に住む約30名。事業運営に求められる経理・会計や資金調達のポイント、マーケティングの基礎を学んだ。
この講座には、ビジネスのノウハウを学ぶと同時に、起業家同士のネットワークをつくる目的もある。そこで重要なのがコーディネーターの存在だが、石巻復興支援ネットワークでは、さまざまな相談に乗りながら起業家のネットワークづくりを促す担当者を地域ごとに配置している。南三陸地域のコーディネーター・厨(くりや)勝義さんは、起業家同士が日常的な交流の中で、事業上の課題解決を見出している様子に着目し、12年度と13年度の起業家同士も意識的に引き合わせてきた。
講座には南三陸町からも6名の参加があった。参加者の1人、養殖漁業を営む村岡絹子さんは、夫婦でかき小屋「漁師の番屋」を開こうと応募し、起業の準備中だ。もともと顔見知りだった同じ町の住人が何人も昨年度に起業しており、それが刺激となって起業を決意したと言う。
地元の起業家が増えれば、一つひとつのビジネスは小さくとも、それが有機的につながることで、地域の復興と活性化への貢献が期待できる。そこで今年度は、意識的に地域内連携を加速するため、事業申請書に推薦者の欄を設けた。「個々のビジネスプランも重要だが、地縁に恵まれていることも大切な資質。さまざまな事業が一つの地域に集積することで、起業家という『点』から地域という『面』の力が生まれ、地域復興が促進される」と村上さんは期待する。国や県による支援の枠組みを生かし、地域に雇用と活力をもたらすためには、こうした起業家を支える工夫が今後も必要となりそうだ。
文/小島和子
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