(本稿は「きっかけバス47」の学生統括、白井宏美さんからの寄稿文です)
「なぜ人のお金で?学生は時間があるんだからバイトで稼げばいいじゃん」
「東北に直接寄付するんじゃなくて、なぜ君たち学生に寄付するの?」
47都道府県の学生が東北に行き、東北の復興と地元の防災を考えるきっかけをつくろうという「きっかけバス47」。
昨年の6月からの10ヶ月間。
キツイことも言われ大変なことばかりでたくさん悩みながらもこのプロジェクトの学生統括を続けてきた。私がなぜこんなことを始めたのか、そしてそこから見えてきたことを、まとめてみたいと思います。
内定を辞退してでも、東北にコミットしたかった
2年前の春。私が初めて東北に行ったのは、社会人の方の寄付で行くボランティアバスツアー。たまたま友達に誘われて参加。それまでは、今とは違い、何も東北や復興に興味がなかった。
山積みのがれき、病院の上におおきな船、人の気配のなさ
現地では被災の大きさに圧倒された。でももっと印象に残ったのは、東北で会う人会う人がみんな笑顔だったことだった。「たまたま私も助かったからね、いっぱい感謝してその分生きないとね」こんな感謝の言葉をたくさん耳にした。そこで生きている人の目や言葉を聞いたときに、私の中に芽生えた感覚は、「恥ずかしい」というものだった。私はなんて甘ったれて生きてるんだろう。生きる必死さとか真剣さとか。今ある命のこれっぽっちも、私は活かしきれてないし生ききれていないと思った。
初めての東北訪問の後、帰ってきてもしばらく頭から東北のことが離れなかった。衝撃や感謝、恥ずかしさや悔しさ、色んな感情が錯綜した。この人たちのために、自分ができることはなんだろう、少しでも何かやり続けたい。行動に移すなら後伸ばしにするんじゃなくて今だ!関わるのであれば中途半端じゃなくて徹底的にだ!そう確信した私は、就職活動をし内定もいただいていたが、進路を変更して徹底的に東北に関わろうと決意した。リスクもあるし、大変だとはわかっていたけど、本当に納得いく生き方をしようと考えたときに、働く場だけでなく、他のさまざまなことでも、他人の目だけでなく自分の感覚も大事にしたいと強く思った。東北に行くことによって、自分自身の生き方に目を向けさせてもらったということなのかもしれない。
ちょうどそんなことを思っていた、1年前の春。震災から3年目を迎え、東北に関心を寄せる人がどんどん減っていた。でも、実際に東北に行ってみると、復興はまだまだの状況。仲良くなったおじちゃんやお母さんからそのとき言われたのは「過去の震災の教訓がきちんと活かされていれば、もっとたくさんの命が助かった」ってことば。
それらをうけて。もう一度、東北に関わる人を増やしたい。次いつおこるかわからない災害に、各地域でしっかりと備えたい。いつでも助けにいける連携できるコミュニティをつくりたい。そして。私と同じように、ちょっとしたきっかけで、復興や防災に少しでもいいから関心をもつ人を増やしたい。そんな思いから、きっかけバスを始めた。
お金を託されることは、相手への約束
47都道府県でリーダーを募り、クラウドファンディングで寄付を集め、リーダーのための研修合宿を開催。研修合宿に参加したリーダーは自分の地元に戻って、東北に行ったことのない学生を約40人集め、寄付のお願いや募金活動を実施。
2月〜3月にかけて、47都道府県の学生1711人が東北に行きボランティア活動や現地の方との交流やお話のなかで、復興と防災を学んだ。今度は参加した学生が中心となり、それぞれの地元で報告会を開催し、東北で感じてきたこと支えてくださった方への感謝を伝える。
最初はほんとうに全て手探りだった。全国のネットワークもゼロ。お金集めもしたことない。東北のこともわからないことだらけ。でも、わからないなりに、1つひとつ動いていくうちに、少しずつ前進していくのを、共感・応援してくれる人が増えていくのを感じた。なかでも、寄付のお願いをした経験は、エネルギーを本当に多くつかった。
初めて、人からお金をいただく行為である寄付をやってみて。中学校・高校の先生、バイト先の先輩、学生団体やサークルの友達、大学の友人、一緒に東北に行ったメンバー、以前関わっていたインターン先の方、一緒に住んでいる人、恋人…。自分の身の回りの大人や同世代の友人が、本当にたくさん協力してくれた。
なかでも嬉しかったのは、1番尊敬している、元インターン先の方からご支援いただけたときだった。今までお世話になってばかりだし教えてもらってばっかりなはずなのに、東北への気持ちやプロジェクトに対する気持ちを快く受けとめてくれて、忙しいにも関わらず応援の言葉と共に支援してくれた。大事な人から、お金を託されている感覚、応援されている感覚は、すごく嬉しいし有難いと同時に、それに見合う人間に自分がなること、それに見合うプロジェクトをすることで社会に還元するっていう約束をした感じに近かった。
寄付に対する批判の嵐。でも。
もちろん、良い反応ばかりではなかった。意見や批判、毎日のようにいただいていた。様々なお声をいただいたが、もっとも多く頂いたものは、次のものだった。
「なぜ人のお金で?学生は時間があるんだからバイトで稼げばいいじゃん」
指摘される通り、参加する学生がバイトで稼げばお金は集まる。むしろ、自分でバイトで稼いだ方が間違いなくラク。でも、なんで寄付というカタチをとるかというと、自分以外の他者にもこのプロジェクトに関わってもらうことで、東北に関わる人を2倍でも3倍でも増やせると考えたから。少しでも東北に関心をよせる人が増えれば、それが風化防止につながるから。そう思い、寄付でお金を集めていた。
でも、ほんとはそれだけじゃないと、続ける中で徐々に気づいていった。バイトだと、自己完結で終わってしまう。東北への関わりや東北で気づいたことも、自分の気持ちが満足してしまえば、変わってしまえば、そこで終了してしまう。学生という立場であれば尚のこと。でも、そこで、他人が関わることで自分を応援してくれ・託してくれる人がいることで、東北のことや、日常のことも、自分のよわっちい気持ちから目をそむけたり、途中で投げ出したり、中途半端になんかできなくなる。たとえ逃げたとしても、すぐ修正したり見直そうという気持ちになる。人のお金でいくこと、誰かの思いをいただくことがどれだけ貴重で有難いことで、重いことか。それを、活動をしながら常々感じてきたし、参加した学生にいちばん伝えたいことは、これだった。
他に多く頂いた声は、「東北に直接寄付するんじゃなくて、なぜ君たち学生に寄付するの?」というものだった。
東北で仲良くしてもらっている、おじちゃんやお母さんの「過去の震災の教訓がきちんと活かされていれば、もっとたくさんの命が助かった」ってことば。学生という立場で、次起こる災害にむけて何ができるんだろうって考えたとき、若い世代が中心になって、今後のために少しでも防災の知識や意識を47都道府県に根づかせておくことが大事だと考えた。
実際にこの1年間で、大雨・洪水、大雪、地震、東北に限らず全国各地で自然災害が起きた。その際多くの参加した学生が、LINEやfacebookで身近な人への気遣いや注意喚起を呼びかけていた。防災BOOKをつくり、非常時への備えや避難所運営のポイントをまとめ全国に発信する学生もいた。今では各地で地元のボランティアセンターや団体、防災士の方々と協力して継続的な防災のイベントの開催、中学や高校の生徒への東北や防災の講話、勉強会の開催をしている地域が多くある。東北に行った学生が今度は地元の防災に向けて活動を広げ、次に災害が起きたとき自分たちが地元を守り、助けにいく側なんだという意識で活動している。
「ほんとにきっかけバスの活動は東北のためになるの?」
「人のお金でボランティアに行くなんてありえない」
「なんでわざわざ学生を被爆させにいくのか」
共感してくださる方がたくさんいる一方で、真逆に考える人もたくさんいた。電話越しや直接お話してくださる方とは、最初は感情的に訴えかけられて私の考えも一切聞いてもらえないことが多く、その勢いに私も圧倒され気持ちが滅入ることもあったけど、指摘の意図をいっこいっこ汲み取っていくと、プロジェクトの趣旨や意図など、伝えきれていないことが多く、結果として齟齬や誤解がうまれていることが多かった。批判の声をもらうたびに伝えることがどれだけ難しくて繊細なものなのかをものすごく体感した。
同時に、きっかけバスの意義や、寄付でやる意味、学生が行く意味、東北の方の心境など、改めてもう一度考える機会になった。批判や反論をしてくださる人へも、その人のだいじな自分のエネルギーと時間をきっかけバスのために注いでくれていてとても有難く感じた。それまで良い・悪いとか、正解・不正解とか両極端でしかものごとをとらえていなかったけど、寄付の活動を経て、批判を悪いものと考えなくなったし、ふと立ち止まって伝え方やプロジェクトの方針を考える貴重なポイントになった。
わたしの原動力
東北で同じ景色、同じ人の話をきいても、1人ひとり違うそれぞれの言葉や考えがあった。そのなかでもわたし自身が今回まとめてみて改めて再認識したのは、きっかけバスや支援してくださった方からいただいたものはたくさんあるけど、その1番が、終わりのない目標(=恩返し)をつくれたこと。これが、私にとって何よりの財産だなと思っています。どんなに頑張っても返しきれないし、感謝しきれない相手がいることがものすごく自分のエネルギーになっているし、いつか返したいっていう活動の原動力になっています。
寄付はまだまだ馴染みがないものだし集めるのも大変です。批判も多いです。でも、それでも、きっかけバスで寄付集めをして私がやりたかった伝えたかったのは、東北の復興に関わり地元の防災について考える人を少しでも増やしたかったから、新しく関わる人を増やしたかったから、なんです。
埼玉県出身。早稲田大学教育学部数学科を卒業。
2013年6月から全国47都道府県の学生を東北に送る「きっかけバス」の学生統括を行う。2014年4月より公益社団法人助けあいジャパンの職員として勤務。
きっかけバスwebサイト