薄く広がる雲を透かして光が柔らかい。気温は零度を下回るのか、冷気で頬がピリピリとこわばる寒さ。この日、遠くの空まで見渡せる広場に、赤い衣装を身につけた彼らが集まった。「100人のサンタクロース」だ。ちょっととぼけたトナカイもいる。
12月下旬の三連休。関東や関西を中心に集まったボランティアがサンタクロースの格好をし、岩手県大槌町、陸前高田市、釜石市の街を歩きお菓子を地元の人たちに配った。お菓子は全国から集まった寄付で買ったもの。
取材に訪れたのは三連休の2日目で、サンタが陸前高田市に訪れた日だ。高田小学校の体育館をメインフィールドに、市内の各地域を回った。「自分でもできることを」と大阪から駆けつけた女性は去年も参加したという。神奈川から団体で参加した大学生のグループもあった。
この「サンタが100人やってきた!」は、震災直後に陸前高田市の避難所に派遣された一人の看護師のブログをきっかけに始まったプロジェクト。避難所で生活していた小さな女の子が「また冬になったらサンタさん来てくれるかな?」と彼女に聞いたというエピソードを知り、NPO法人遠野まごころネットが、被災した地域に少しでも笑顔を…と企画した。3年目を迎える今年は、被災した地域の人たちに「忘れてないよ」というメッセージを伝えつつ、また対外的に被災地の現状を発信することも大事な目的の一つだ。
今年は約700名の応募があり、その3分の2近くが去年も参加した人。裏を返せば「サンタ100人」に新規で参加してくれる人がかなりの数いるということだ。震災から3年目になる今、「ボランティアを…」と思ってもそのきっかけをつかむのはなかなか難しい。それが、「サンタクロースであれば、自分でもできるかもしれない」と参加してくれる人がいるのだ。もちろん支援の形は、ボランティアだけではない。寄付として集められたお金は、地元の商店などからクリスマスプレゼント用のお菓子購入に充てられ、地元に還元された。
このプロジェクトの支援の結果として「まごころサンタ基金」ができた。これは初年度の時の呼びかけで集まった寄付金が、プロジェクトで必要となる金額を上回ったため、その残金の使途として、被災し経済的な理由から進学が難しい子どもを進学の支度金の一部を補助するという形でサポートすることを決めたのだ。
「サンタが 100 人やってきた!」が地元 の人たちに送るプレゼントは、お菓子というものであると同時に、忘れていないというメッセージ、そしてその先にある子供たちの夢の支援でもあるのだ。
写真・文=岐部淳一郎
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